グロインペイン(鼠径部痛症候群)
グロインペインは、脚の付け根(鼠径部)から下腹部、内ももにかけて痛みが出る状態をまとめた呼び方です。「鼠径部痛症候群」ともいいます。
サッカー選手に多いことで知られていますが、ランニング、ホッケー、ラグビー、陸上、格闘技など、蹴る・走る・切り返す・ひねる動作の多い競技で広く起こります。
この症状には、知っておいていただきたい特徴があります。
グロインペインは、ひとつの病名ではありません。 鼠径部周辺で起こりうる複数の原因をまとめた「症候群」であり、どれが痛みの主な原因かを見極めることが、治療の出発点になります。
そして残念ながら、アスリートの長期離脱につながりやすい症状でもあります。
なぜひとつの病名ではないのか
脚の付け根は、体の中でも特に多くの組織が集まる場所です。
- 股関節そのもの(関節・関節唇・軟骨)
- 内ももの筋肉(内転筋群)とその付着部
- 下腹部の筋肉(腹直筋・腹斜筋)とその付着部
- 恥骨とその結合部
- 腸腰筋(股関節を曲げる深い筋肉)
- 神経の通り道
- 鼠径管(鼠径ヘルニアが起こる場所)
これらが狭い範囲に密集しているため、痛みの出方が似通ってしまい、原因の特定が難しくなります。 しかも、複数の原因が同時に関わっていることも珍しくありません。
「グロインペインと診断された」というのは、「脚の付け根が痛い状態である」と確認された段階であって、原因が特定されたわけではない——ここが理解のポイントです。
主な原因
- 内転筋(内もも)の付着部の障害:最も多いとされます。ボールを蹴る、切り返すときに強く働く筋肉です
- 腸腰筋の障害:股関節を曲げる筋肉。ダッシュや蹴り上げで負担がかかります
- 恥骨結合部の障害:左右の恥骨がつながる部分の炎症
- 下腹部の筋肉の付着部の障害
- 股関節そのものの問題:関節唇の損傷、股関節のかたちの問題(FAI)
- 鼠径管周辺の障害:スポーツヘルニアと呼ばれることがあります
整形外科以外の原因もあります
鼠径部の痛みは、運動器以外の病気で起こることもあります。次のような場合は、他の診療科での確認が必要になります。
- 立ったりいきんだりすると、鼠径部が膨らむ:鼠径ヘルニア(外科)
- 陰部の痛み、排尿の症状を伴う:泌尿器科
- 月経周期と関係して痛む、下腹部痛を伴う:婦人科
- 発熱を伴う、安静にしていても痛む:感染や、まれに腫瘍性の病変
当院では、まず整形外科の視点で原因を確かめ、他科の病気が疑われる場合には適切な診療科をご案内します。 「スポーツによる痛みだと思っていたら別の原因だった」ということもありますので、気になる症状は遠慮なくお伝えください。
症状
- 脚の付け根、内もも、下腹部の痛み
- キック動作、ダッシュ、切り返しで痛む
- 腹筋運動で痛むことがある
- 股関節を大きく開く・閉じる動作で痛む
- 進行すると、歩行や日常生活でも痛む
- 咳やくしゃみで響くことがある
初期は「練習後に少し痛む」程度で、続けているうちに、練習中ずっと痛むようになっていくという経過が典型的です。
長期離脱につながりやすい理由
グロインペインが厄介なのには、いくつかの理由があります。
① 原因の特定に時間がかかる
複数の組織が関わるため、どこが主な原因かを見極めるのに時間を要します。
② 使わずにいることが難しい
歩く、走る、方向を変える——日常動作でも鼠径部は働きます。
③ 我慢して続けてしまう
初期の痛みが軽いため、「これくらいなら」と練習を続け、悪化させてしまうことが多くあります。
④ 体幹・股関節の機能が背景にある
痛みが出ている場所だけを治しても、それを生んだ体の使い方が変わらなければ、また同じことが起こります。
だからこそ、早い段階で確かめることと、原因の切り分けを丁寧に行うことが大切になります。「少し痛むだけ」の段階でのご相談を、ためらわないでください。
診断
問診では、いつから・どの動作で・どこが痛むか、競技と練習量、痛みが出はじめた時期の練習内容の変化をうかがいます。「どの動作で痛むか」は、原因を絞り込む最大の手がかりです。
診察では、押して痛む場所を丁寧に確かめ、内転筋・腸腰筋・腹部の筋肉に抵抗をかけたときの痛み、股関節を動かせる範囲を評価します。あわせて、体幹の安定性、股関節周囲の柔軟性と筋力、骨盤の動きを確認します。
レントゲンでは、股関節のかたち、恥骨結合部の状態を確認します。
超音波(エコー)検査では、筋肉や腱の付着部の炎症を観察できます。当院では院内で行えます。
MRIは、関節唇の損傷、恥骨結合部の炎症、筋肉の損傷を詳しく調べる際に用います。連携医療機関での撮影となります。
治療
保存的な治療が基本です
① 負担の調整
痛みが強い時期は、キック・ダッシュ・切り返しといった負担の大きい動作を控えます。ただし、完全に何もしないわけではありません。 痛みの出ない範囲で、水中運動、自転車、上半身のトレーニングを続けます。
② お薬
痛みや炎症を抑える外用・内服を用います。
③ リハビリテーション(治療の中心)
グロインペインでは、リハビリテーションが治療の主役になります。
- 股関節周囲の柔軟性:内転筋、腸腰筋、ハムストリング
- 体幹の安定性:腹部・骨盤まわりの筋肉が働かないと、負担が鼠径部に集中します
- 股関節の筋力:とくに内転筋・外転筋のバランス
- 動作の見直し:キック動作、着地、方向転換のしかた
「痛むのは鼠径部でも、原因は体幹や股関節の使い方にある」ことが多く、ここを整えなければ再発します。当院には理学療法士が常勤しており、保険診療の範囲で受けていただけます。
復帰までの考え方
痛みが取れたからすぐ全開、ではありません。段階的に負荷を上げ、各段階で翌日に痛みが残らないことを確認しながら進めます。
- 段階1:日常生活で痛みがない
- 段階2:ジョギング
- 段階3:ダッシュ・方向転換
- 段階4:キック動作・競技特有の動き
- 段階5:練習への完全復帰
焦って戻ると再発し、結果的にもっと長い離脱になります。
手術
保存的な治療で改善しない場合や、関節唇の損傷などが明らかな場合には、手術が検討されることがあります。当院では手術は行っておりません。 必要と判断した場合には、専門的な治療を行う医療機関へご紹介します。
よくあるご質問
Q. どのくらいで治りますか?
原因と程度によって大きく異なります。数週間で復帰できる場合もあれば、数か月を要する場合もあります。早い段階で対応を始めるほど、短くなる傾向があります。
Q. 痛いけれど練習できます。休まないとだめですか?
初期であれば、量と内容を調整しながら続けられることもあります。ただし、「痛みが強くなっている」「練習の始めから痛む」場合は、一度状態を確かめてください。 我慢して続けることが、長期離脱の最大の原因です。
Q. 何度も繰り返します。
痛みが出た場所だけを治療して、それを生んだ体の使い方が変わっていない可能性があります。体幹・股関節の機能を評価したうえで、根本から見直しましょう。
Q. ストレッチをすればよいですか?
柔軟性の改善は大切ですが、痛む方向に強く伸ばすと悪化することがあります。 何をどこまで伸ばすかは、状態を確かめたうえでご案内します。
Q. 何科を受診すればよいですか?
スポーツによる鼠径部の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、他科の病気が疑われる場合は適切な診療科をご案内します。