単純ヘルペス
単純ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスによって、皮膚や粘膜に小さな水ぶくれが集まってできる病気です。
このウイルスには、他の感染症と大きく違う性質があります。
一度感染すると、体から出ていきません。
初めて感染したあと、ウイルスは神経の根もとに潜んで、生涯そこにとどまります。 普段は免疫の力で抑え込まれていますが、体力が落ちたときに再び活動を始め、症状を出します。これが「繰り返す」理由です。
治療の目標は、ウイルスを消すことではなく、再発したときに早く抑えること、そして再発の回数を減らすことになります。
まず知っておいていただきたいこと
このウイルスについては、誤解と偏見が根強くあります。事実として、次のことをお伝えしておきます。
① 多くの成人が、すでにこのウイルスを持っています。
日本を含む多くの国で、成人の相当数が抗体を持っているとされています。珍しいことでも、特別なことでもありません。
② 感染は「不潔だから」「だらしないから」ではありません。
唇のヘルペスは、家族間の接触や食器の共用など、日常の中で幼少期に感染することがほとんどです。
③ 症状がないときにも、ごく少量のウイルスが出ていることがあります。
そのため、「誰からうつったか」を特定することは、実際にはほとんどできません。相手を責める、あるいは自分を責めることに、医学的な根拠はありません。
この点を最初にお伝えするのは、不必要な自責や人間関係の悪化を避けていただきたいからです。
1型・2型と、症状の出る場所
単純ヘルペスウイルスには1型(HSV-1)と2型(HSV-2)があります。
一般には「1型=口、2型=性器」と説明されることが多いのですが、実際には、この対応は絶対ではありません。
- 1型でも性器に症状が出ることがあります
- 2型でも口のまわりに症状が出ることがあります
つまり、症状が出た部位から「どこで感染したか」を推測することはできません。 この点も、誤解による人間関係のトラブルを避けるために知っておいていただきたいことです。
症状が出やすい場所
- 口唇・口のまわり(口唇ヘルペス):最も多い
- 性器・その周辺(性器ヘルペス)
- 顔・目のまわり
- おしり・太もも
- 手指(ひょう疽型)
症状
初めて感染したとき(初感染)
症状が強く出ることがあります。
- 広い範囲に水ぶくれ
- 強い痛み
- 発熱、リンパ節の腫れ、だるさ
- 口の中に多数の潰瘍ができ、食事がとれなくなることも(小児に多い)
ただし、初感染で症状が出ない方も多く、気づかないまま経過することも珍しくありません。
再発のとき
初感染に比べて、症状は軽く、範囲も狭くなるのが一般的です。
- 前駆症状:ピリピリ、チクチク、むずむず(数時間〜1日前)
- 赤み → 小さな水ぶくれの集まり → 破れる → かさぶた
- 多くは1〜2週間程度で治ります
- 毎回ほぼ同じ場所に出ます
早く飲むほど、軽く済みます
単純ヘルペスの治療は、抗ウイルス薬の内服が中心です。
そして、この治療には時間の要素があります。
ウイルスが増えている時期に飲むほど、効果が期待できます。 逆に、水ぶくれが破れてかさぶたになりかけている段階では、すでにウイルスの増殖はピークを過ぎており、効果は限られます。
つまり、「ピリピリしてきた」という前駆症状の段階で飲み始めるのが理想です。
繰り返している方の多くは、再発のサインを自分で分かっています。 この「分かる」を活かせるかどうかで、経過が変わります。
繰り返す方への対応
あらかじめお薬をお渡ししておき、サインが出た時点でご自身の判断で飲み始めていただくという方法が使える場合があります。これができると、毎回受診を待つ必要がなくなり、治療の開始が早まります。
また、年間の再発回数が多い方には、毎日少量を飲み続けて再発そのものを減らす方法もあります。適応となる条件がありますので、繰り返す頻度が高い方は、一度ご相談ください。
再発を減らすためにできること
再発の引き金になりやすいことを避けることで、回数を減らせる場合があります。
- 疲労・睡眠不足を避ける:最も多い引き金です
- 強い日光を避ける:口唇ヘルペスでは、紫外線が誘因になります。リップクリームタイプの日焼け止めが有効なことがあります
- ストレスの管理
- 風邪をひかないようにする
- 月経前後に出やすい方は、その時期に備えておく
- 歯科治療の前後に出やすい方は、あらかじめご相談を
「またか」と思われるかもしれませんが、引き金が分かっていれば、備えることができます。 ご自身の再発パターンを記録しておくと役立ちます。
人にうつることについて
うつりやすいのは、水ぶくれがある時期です。水ぶくれの中の液体にウイルスが多く含まれます。
気をつけること
- 水ぶくれを触らない。触ったら手を洗う
- タオル・食器・グラスを共用しない
- 患部を触った手で目をこすらない
- 赤ちゃん、アトピー性皮膚炎の方、免疫が低下している方には、とくに接触を避ける
- 口唇に症状があるときのキス、性器に症状があるときの性的接触は避ける
かさぶたになれば、うつる心配はほぼなくなります。
とくに注意が必要な方への感染
- 新生児:重症化することがあり、注意が必要です
- アトピー性皮膚炎の方:広い範囲に広がることがあります(カポジ水痘様発疹症)
- 免疫を抑える治療を受けている方
ご家族にこれらに当てはまる方がいらっしゃる場合は、症状が出ている間の接触にご注意ください。
こんなときはご相談ください
- 繰り返していて、毎回つらい
- 年に何度も再発する
- 範囲が広い、痛みが強い
- 目の周囲、まぶたに症状がある(早めにご相談ください)
- アトピー性皮膚炎がある方で、広い範囲に水ぶくれが出た(早めにご相談ください)
- 発熱、強いだるさを伴う
- 免疫を抑えるお薬を使っている
- 妊娠中である
診断
問診では、いつから、どこに、どのように出ているか、過去に同じ場所に出たことがあるか、前駆症状の有無、きっかけ、持病とお薬をうかがいます。
診察では、水ぶくれの分布・大きさ・範囲、痛み、リンパ節の腫れを確認します。多くの場合、見た目と経過で診断がつきます。
判断が難しい場合や、他の病気との区別が必要な場合には、検査を行うことがあります。
よくあるご質問
Q. ウイルスを完全に消すことはできますか?
現在の治療で、神経に潜んだウイルスを取り除くことはできません。再発を早く抑えること、回数を減らすことが治療の目標になります。
Q. 何度も繰り返すのは免疫が弱いからですか?
再発の頻度には個人差があり、必ずしも免疫の強さだけで決まるものではありません。疲労や紫外線などの引き金が重なると出やすくなります。
Q. パートナーにうつしてしまいますか?
症状がある時期は可能性があります。ただし、症状のない時期にもごく少量のウイルスが出ていることがあるため、完全に防ぐことは難しいのが実際です。だからこそ、誰かを責める話にはなりません。
Q. 妊娠中ですが大丈夫ですか?
部位と時期によって注意が必要な場合があります。自己判断せず、妊娠中であることをお伝えのうえご相談ください。
Q. 市販薬で治せますか?
市販の外用薬もありますが、繰り返している方や範囲が広い方は、内服のほうが効果が期待できます。
Q. 何科を受診すればよいですか?
皮膚の水ぶくれは皮膚科でご相談いただけます。目の周囲に症状がある場合は、眼科での確認が必要になることがあります。