掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
手のひらや足の裏に、小さな膿をもった発疹(膿疱)ができて、赤み・皮むけ・ひび割れを繰り返す病気を「掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)」といいます。「膿疱」という文字を見ると感染症を思い浮かべる方が多いのですが、この膿は細菌感染によるものではなく、人にうつることはありません。よくなったり悪くなったりを波のように繰り返しながら、慢性的に経過することが多い病気です。かゆみや痛み、ひび割れによる不快感が続き、日常生活や仕事に支障が出る方もいらっしゃいます。また、胸の骨まわりや関節の痛みを伴うことがあることも知られています。このページでは、掌蹠膿疱症の症状の特徴、関連するといわれている背景、関節症状の可能性、診断の流れ、保険診療でできる治療、症状が強い場合の選択肢までをご説明します。
掌蹠膿疱症とはどんな病気ですか(症状の特徴)
掌蹠膿疱症は、手のひら(掌)や足の裏(蹠)を中心に、次のような症状を繰り返す皮膚の病気です。
- 膿疱(のうほう):赤みのある皮膚の上に、黄色っぽい小さな膿をもった発疹が多数できます。この膿は細菌感染による化膿ではなく、炎症によってできる無菌性の膿です。
- 赤み・皮むけ:膿疱ができた部分は赤くなり、時間とともに茶色いかさぶたのようになって、皮がぽろぽろとむけていきます。
- ひび割れ・かゆみ・痛み:皮膚が厚く硬くなったり、ひび割れたりすることがあり、歩行や手作業がつらく感じる方もいます。かゆみを伴うこともあれば、あまり感じない方もいます。
症状は手のひら・足の裏の一部に限られることもあれば、広い範囲に及ぶこともあります。よくなったり、再び膿疱が出てきたりを繰り返しながら、数か月から数年単位で経過することが多く、季節の変わり目やストレス、体調の変化にあわせて悪化する方もいます。左右対称に症状が出やすいのも特徴のひとつです。
大切なポイントとして、掌蹠膿疱症は感染症ではなく、人から人へうつる病気ではありません。ご家族や周囲の方にうつす心配はありませんので、過度に心配なさらないでください。
掌蹠膿疱症の原因と、関連するといわれている背景(喫煙・病巣感染・金属アレルギー)
掌蹠膿疱症がなぜ起こるのか、その仕組みはまだ完全には解明されていません。ただし、いくつかの背景が症状に関わっていることがあるとされており、これらを確認し、可能な範囲で取り除いていくことが治療の一環として大切だと考えられています。
- 喫煙:掌蹠膿疱症の患者さんには喫煙者が多いことが知られており、喫煙と症状の悪化には関連があるといわれています。禁煙によって症状が改善する方がいる一方で、禁煙してもすぐには変化が出ない方もおり、効果には個人差があります。それでも、皮膚の健康だけでなく全身の健康のためにも、禁煙は積極的におすすめしています。
- 病巣感染(扁桃・歯性感染症など):喉の奥にある扁桃(へんとう)の慢性的な炎症や、歯・歯ぐきの慢性的な感染(歯性感染巣)など、体の別の場所にある感染巣が、免疫のはたらきを介して皮膚の炎症に関わっていることがあるとされています。これを「病巣感染」と呼びます。すべての方に当てはまるわけではありませんが、なかなか症状が落ち着かない場合には、こうした感染巣の有無を確認することが治療の手がかりになることがあります。
- 金属アレルギー:歯科治療で使われる金属など、体内の金属に対するアレルギーが症状に関与しているのではないかと考えられる方もいます。金属アレルギーの関与が疑われる場合は、パッチテストなどで確認したうえで、歯科と相談しながら金属の見直しを検討することもあります。
これらはいずれも「関与することがある」とされている背景であり、すべての患者さんに当てはまるわけではなく、また一つの原因だけで説明できるとも限りません。ご自身の症状にどの背景が関わっているかは、問診や診察を通じて丁寧に確認していく必要があります。
関節や骨の痛みを伴うことがあります(掌蹠膿疱症性骨関節炎)
掌蹠膿疱症では、皮膚症状に加えて、胸の骨まわり(前胸部)や鎖骨、肋骨のつけ根、あるいは背骨や手足の関節に痛みやこわばりが出ることがあります。これを「掌蹠膿疱症性骨関節炎(しょうせきのうほうしょうせいこつかんせつえん)」と呼びます。
関節症状は、皮膚症状と同じ時期に出ることもあれば、皮膚症状より先に出る方、逆に皮膚が落ち着いたあとに関節の痛みが目立つ方など、経過は人によってさまざまです。胸のあたりの痛みは、心臓や肺の病気と紛らわしく感じることもありますが、掌蹠膿疱症に伴う骨・関節の炎症であることが少なくありません。皮膚の症状がある方で、胸や鎖骨、背中、手足の関節に原因のはっきりしない痛みが続く場合は、そのことを診察時にお伝えください。
当院は皮膚科と整形外科をあわせて併設しており、関節や骨の痛みについても院内でご相談いただける体制です。症状に応じて、皮膚科と整形外科の視点をあわせてご案内します。
診断の流れについて
掌蹠膿疱症の診断は、手のひら・足の裏の症状の見た目や経過を確認することが基本になります。似たような症状を起こす他の病気(水虫〈足白癬〉や汗疱状湿疹など)と見分けるため、必要に応じて皮膚の一部を採って顕微鏡で確認する検査(真菌検査)を行うことがあります。
あわせて、次のような点を問診・診察で確認していきます。
- 喫煙の有無や本数
- 喉の痛みや腫れを繰り返していないか(扁桃の状態)
- 歯や歯ぐきの治療歴、慢性的な歯科トラブルの有無
- 歯科金属の使用歴と、金属アレルギーが疑われる症状の有無
- 胸・鎖骨・関節などの痛みやこわばりの有無
これらの情報をもとに、病巣感染や金属アレルギーの関与が疑われる場合には、耳鼻咽喉科や歯科など関連する診療科と連携しながら確認を進めることがあります。関節症状が疑われる場合は、レントゲンなどの画像検査で確認することもあります。
保険診療でできる治療
掌蹠膿疱症の治療は、まず保険診療の範囲でしっかりと行うことが基本です。当院では、症状の程度や背景に応じて、外用薬を中心に、生活習慣の見直しや背景の確認をあわせて進めていきます。
外用薬(塗り薬)
治療の中心となるのは外用薬です。皮膚の炎症を抑えるステロイド外用薬や、皮膚のターンオーバーを整えるビタミンD3外用薬を、症状の程度に応じて使い分けたり組み合わせたりします。皮膚が厚く硬くなっている部分は薬が浸透しにくいこともあるため、保湿剤の併用や塗り方の工夫も大切です。効果の出方には個人差があり、根気よく継続していただくことが改善につながります。
生活指導・禁煙のすすめ
前述のとおり、喫煙は症状に関連するといわれているため、喫煙されている方には禁煙をおすすめしています。あわせて、手足への摩擦・刺激を避ける、規則正しい生活を心がけるといった生活面のアドバイスも行います。
背景の確認(病巣感染・金属アレルギーのチェック)
外用薬でなかなか改善が乏しい場合や、繰り返す扁桃炎・歯科トラブルの自覚がある場合には、病巣感染の有無を確認していきます。扁桃や歯の状態を確認したうえで、耳鼻咽喉科・歯科と連携しながら、必要な治療(扁桃の治療や歯科治療など)につなげていくことがあります。金属アレルギーが疑われる場合も同様に、確認や歯科との相談を行います。こうした背景への対応によって、皮膚症状の改善につながる方もいます。
症状が強い場合・改善が乏しい場合の治療の選択肢
外用薬や生活指導を続けても改善が十分でない場合や、症状の範囲が広い中等症以上の場合には、次のような治療が選択肢となります。いずれも当院での対応が難しい場合は、対応可能な専門医療機関と連携しながらご案内します。
- 光線療法:紫外線の一種(ナローバンドUVBなど)を患部に照射する治療で、炎症を抑える効果が期待できます。定期的な通院が必要です。
- 内服薬:皮膚のターンオーバーを整えるビタミンA誘導体(レチノイド)の内服などが用いられることがあります。副作用の管理が必要なため、経過を見ながら慎重に使用します。
- 生物学的製剤:炎症に関わる特定の物質のはたらきを抑える注射薬で、既存の治療で改善が乏しい場合の選択肢のひとつです。導入や継続管理には専門的な体制が必要となるため、対応可能な医療機関と連携してご案内します。
どの治療が適しているかは、症状の範囲や程度、これまでの治療経過、関節症状の有無などを踏まえて、一人ひとりに合わせて検討します。
掌蹠膿疱症はうつりますか?
うつりません。膿疱という言葉から感染症を連想される方が多いのですが、掌蹠膿疱症の膿は細菌感染によるものではなく、無菌性の炎症性の変化です。ご家族や周囲の方にうつす心配はありませんので、ご安心ください。
禁煙すると良くなりますか?
喫煙は掌蹠膿疱症の症状に関連するといわれており、禁煙によって症状の改善が期待できる方がいます。ただし、禁煙してすぐに効果が現れるとは限らず、効果の出方や現れるまでの期間には個人差があります。禁煙は皮膚症状だけでなく全身の健康にもつながる大切な生活習慣の見直しですので、外用治療とあわせて取り組んでいただくことをおすすめしています。
治療を続ければ治りますか?
掌蹠膿疱症は、よくなったり悪くなったりを繰り返しながら慢性的に経過することの多い病気です。「一度治療すれば二度と出ない」というよりも、外用薬や生活習慣の見直しを続けることで、症状が落ち着いた状態を維持していくことを目標に治療を進めていきます。背景にある喫煙や病巣感染、金属アレルギーへの対応によって、経過が安定する方もいます。長く付き合っていく病気であることを踏まえ、症状が軽いときも治療を中断せず、通院を続けていただくことが大切です。
何科を受診すればいいですか?
手のひらや足の裏に膿疱や皮むけを繰り返す場合は、皮膚科の受診をおすすめします。水虫(足白癬)や手湿疹など見た目が似ている病気もあるため、自己判断で市販薬を使う前に、一度皮膚科で確認することが大切です。当院では、皮膚科専門医が症状を確認したうえで、必要に応じて背景の確認や関連する診療科との連携を含めて治療をご提案します。関節や胸の痛みを伴う場合は、その旨もあわせてお伝えください。
ご自宅でできること(セルフケア)
治療とあわせて、日々のケアも症状の安定を支えます。
- こすらない:手足を洗うときにゴシゴシこすると、皮膚のバリア機能が乱れ、症状を悪化させることがあります。やさしく洗い、こすらずに水分をふき取りましょう。
- 保湿をする:皮膚が厚く硬くなりやすいため、外用薬に加えて保湿剤で皮膚のうるおいを保つことも大切です。
- 摩擦・刺激を避ける:きつい靴やサンダルずれなど、手足への継続的な摩擦は症状を悪化させる要因になります。靴選びや作業時の手袋なども工夫してみてください。
- 禁煙に取り組む:喫煙されている方は、禁煙外来の利用も含めて、無理のない形で禁煙に取り組んでみましょう。
- 体調管理:睡眠不足や過度なストレス、体調不良も症状に影響することがあります。できる範囲で生活リズムを整えましょう。
セルフケアだけで改善しない場合や、悪化してきた場合は、我慢せず医療機関にご相談ください。
受診の目安(こんなときはご相談ください)
- 手のひらや足の裏に膿疱や皮むけを繰り返している
- 市販の水虫薬を使っても改善しない、あるいは悪化している
- ひび割れや痛みで歩行や手作業に支障が出ている
- 症状が良くなったり悪くなったりを繰り返している
- 胸や鎖骨、背中、手足の関節に原因のはっきりしない痛みがある
- 喫煙をしていて、なかなか皮膚症状が落ち着かない
これらに当てはまる場合は、自己判断で様子を見続けず、一度皮膚科にご相談ください。
よくあるご質問
Q. 水虫(足白癬)とはどう違うのですか?
水虫はカビ(真菌)の感染によって起こる病気で、掌蹠膿疱症は感染症ではありません。見た目が似ていることがあるため、皮膚の一部を採って調べる検査で見分けることがあります。市販の水虫薬を使っても改善しない場合は、掌蹠膿疱症の可能性もありますので、皮膚科でご相談ください。
Q. 子どもや家族にうつりますか?
うつりません。掌蹠膿疱症は細菌やウイルス、真菌などの感染によって起こる病気ではなく、無菌性の炎症性疾患です。タオルの共用や入浴を分ける必要もありません。
Q. 歯科治療や扁桃の治療で本当によくなりますか?
病巣感染(扁桃や歯の慢性的な感染)が背景にある一部の方では、その治療によって皮膚症状の改善につながることがあるとされています。ただし、すべての方に当てはまるわけではなく、効果には個人差があります。背景の確認が必要かどうかは、診察のうえで判断します。
Q. 妊娠中でも治療できますか?
妊娠中・授乳中は使用できる外用薬や治療法に制限があります。妊娠の可能性がある場合や妊娠中の場合は、診察時にその旨をお伝えください。状態に応じて、安全に使用できる範囲での治療をご提案します。
Q. 一度症状が落ち着いたら通院をやめてもいいですか?
掌蹠膿疱症は再び症状が出やすい病気です。症状が落ち着いても、自己判断で通院や外用薬の使用を中止せず、経過を見ながら医師と相談のうえで治療の続け方を決めていくことをおすすめします。