大腿骨頭壊死症
大腿骨頭壊死症は、太ももの骨の先端(大腿骨頭)の一部で血流が途絶え、骨の組織が壊死してしまう病気です。
この病気には、知っておいていただきたい特徴が3つあります。
- 壊死が起きても、それだけでは症状が出るとは限らない
- 痛みが出るのは、壊死した部分が潰れたとき
- レントゲンでは初期に写らず、診断にはMRIが必要
「急に脚の付け根が痛くなった」という経過で受診され、レントゲンでは異常がないと言われたものの、MRIで診断がついた——という方は少なくありません。
なぜ血流が途絶えるのか
大腿骨頭は、体重を支える大切な部分ですが、血流を供給する血管が限られているという構造上の弱点があります。何らかの理由でこの血流が妨げられると、その領域の骨組織が壊死します。
関連が知られている要因
① ステロイドの使用
膠原病、腎臓の病気、血液の病気などでステロイドを長期・大量に使用した方に起こることがあります。最も知られている要因です。
② アルコール
習慣的に多量の飲酒をされる方に起こることがあります。
③ 外傷
股関節の脱臼や、大腿骨頸部の骨折のあとに、血流が途絶えて生じることがあります。
④ 原因がはっきりしない場合(特発性)
上記に当てはまらない方にも起こります。
なお、ステロイドを使ったことのある方が必ず発症するわけではありませんし、お酒を飲む方の多くは発症しません。 これらは「関連が知られている要因」であって、必ず起こるものではないとご理解ください。
症状
壊死が起きた時点では、症状がないことが多い
これがこの病気の分かりにくいところです。骨が壊死しても、その段階では痛みが出ないことがほとんどです。健康診断や、別の目的で撮ったMRIで偶然見つかることもあります。
潰れると、急に痛みが出る
壊死した部分は、周囲の骨より弱くなっています。そこに体重がかかり続けると、あるときその部分が潰れます(圧潰)。 このときに、急に強い痛みが現れます。
- 突然、脚の付け根(鼠径部)が痛くなった
- 立ち上がり・歩き始めがつらい
- 歩くと痛みが強くなる
- ときに、お尻や膝に痛みを感じる(放散痛)
「特にきっかけがないのに、ある日から急に痛くなった」という経過が特徴的です。
進行すると
潰れが進むと、股関節の変形が進み、動く範囲が狭くなり、歩行が困難になっていきます。
診断にはMRIが必要です
レントゲンでは、初期の大腿骨頭壊死症は写りません。
骨が壊死しても、レントゲンに変化が現れるのは、潰れが始まってからです。そのため、「レントゲンで異常なし」=この病気ではない、とは言えません。
MRIは、レントゲンに変化が出る前の段階で、壊死の範囲を捉えることができます。 この病気を疑った場合、MRIによる確認が欠かせません。
当院にMRIはありませんので、連携医療機関での撮影となります。 撮影後は、画像をもとに当院で結果をご説明します。
診断の流れ
問診では、いつから・どこが・どのように痛むか、ステロイドの使用歴、飲酒の習慣、股関節のケガの既往をうかがいます。これらは診断の重要な手がかりです。
診察では、股関節を動かせる範囲、痛みが出る角度、歩き方を確認します。
レントゲンで骨の状態を確認し、初期であっても疑いがある場合にはMRIをご案内します。
治療
治療は、壊死の範囲がどこにあるか(体重のかかる場所かどうか)と、潰れが起きているかによって大きく変わります。
経過観察・保存的な治療
壊死の範囲が狭い、あるいは体重のかからない位置にある場合、潰れずに経過することがあります。この場合は、次のような対応をとります。
- 杖の使用:股関節にかかる力を減らします
- 体重の管理
- 痛みへの対応:内服・外用
- 活動の調整:長時間の歩行、重い物を運ぶ作業を控える
- 定期的な画像での確認:潰れが進んでいないかを追います
ただし、保存的な治療で壊死した骨が元に戻るわけではありません。 経過を追いながら、次の判断に備えるという位置づけです。
手術
潰れが進み、痛みが強く日常生活への支障が大きい場合には、手術が検討されます。骨の向きを変えて壊死部への荷重を避ける手術や、人工股関節に置き換える手術などがあります。
当院では手術は行っておりません。 手術が望ましいと判断した場合には、専門的な治療を行う医療機関へご紹介します。手術後のリハビリテーションについては、当院で継続して受けていただくことができます。
原因への対応
ステロイドを使用中の方については、自己判断で減量・中止しないでください。 もとの病気の治療に必要なお薬ですので、処方元の医師と相談しながら進めます。当院からも必要に応じて情報提供を行います。
飲酒については、量を減らすことが望ましいとされています。
指定難病について
特発性大腿骨頭壊死症は、国の指定難病に定められています。診断基準を満たし、重症度の条件に該当する場合、医療費助成の対象となることがあります。
「難病」という言葉に不安を感じられるかもしれませんが、これは原因が完全には解明されておらず、経過を追う必要がある病気という位置づけによるものです。すべての方が重症化するわけではなく、壊死の範囲や位置によっては、潰れずに経過する方もいらっしゃいます。
申請の手続きや対象になるかどうかについては、診断がついた段階でご説明します。
日常生活で気をつけたいこと
診断がついたあと、あるいは経過を追っている期間に、ご自身でできることがあります。
股関節にかかる力を減らす
- 杖を使う:痛む側と反対の手に持ちます。これだけで股関節にかかる力を大きく減らせます。「まだ杖は早い」と感じられる方も多いのですが、潰れを防ぐという目的では、早い段階から使う意味があります。
- 体重の管理:股関節には歩行時に体重の3〜4倍の力がかかるとされます。
- 長時間の立ち仕事・歩行を避ける:休憩を挟みながら。
- 重い物を持ち運ばない:台車やカートを使う。
- 階段より、可能ならエレベーターを
深く曲げる動作を減らす
床に座る、深くしゃがむ、正座、あぐら。椅子中心の生活に切り替えるだけでも違います。
動かさなすぎないこと
負担を減らすことは大切ですが、まったく動かないでいると筋力が落ち、かえって関節が不安定になります。痛みが翌日に残らない範囲で、日常の活動は続けてください。水中歩行など、関節への負担が少ない運動も選択肢になります。始める前に一度ご相談ください。
お酒について
多量の飲酒との関連が知られているため、量を減らすことが望ましいとされています。
定期的に確認する
症状がなくても、潰れが進んでいないかを画像で追うことが大切です。痛みがないからと通院を中断しないでください。次の判断に備えるための経過観察です。
よくあるご質問
Q. レントゲンで異常なしと言われましたが、痛みます。
初期の大腿骨頭壊死症は、レントゲンには写りません。ステロイドの使用歴や多量の飲酒歴があり、股関節の痛みが続く場合は、MRIでの確認をご検討ください。
Q. ステロイドを使っていましたが、必ず発症しますか?
いいえ。使用された方の多くは発症しません。ただし、股関節の痛みが出た場合には、この病気を念頭に置いて確認する価値があります。
Q. 壊死した骨は元に戻りますか?
壊死した骨そのものが元に戻ることはありません。治療の目的は、潰れを防ぐこと、痛みを抑えること、そして日常生活を保つことになります。
Q. 必ず人工関節になりますか?
いいえ。壊死の範囲が狭く、体重のかからない位置にある場合は、潰れずに経過することがあります。手術が必要かどうかは、範囲・位置・潰れの有無によります。
Q. 膝が痛いのですが、股関節の病気ということがありますか?
あります。股関節の病気で膝の内側に痛みを感じることは珍しくありません。膝を調べても原因が見つからない場合、股関節を確かめることがあります。
Q. 何科を受診すればよいですか?
股関節の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、必要に応じてMRIをご案内します。