変形性股関節症

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減り、痛みや動きの制限が生じる病気です。中高年以降の股関節痛の原因として最も多いものです。

日本では、この病気にひとつの特徴があります。多くの方が、生まれつき股関節の受け皿が浅い(臼蓋形成不全)という背景を持っているという点です。そのため、「若い頃から股関節に違和感があった」「学生時代に脱臼しかけたことがある」という方も少なくありません。

股関節のしくみと、何が起きているのか

股関節は、骨盤側の受け皿(臼蓋)に、太ももの骨の先端の球(大腿骨頭)がはまり込む形をしています。ボールとソケットの構造で、あらゆる方向に動かせる一方、体重を支え続ける関節でもあります。

骨と骨が直接こすれないよう、それぞれの表面は関節軟骨という滑らかな組織で覆われています。この軟骨がすり減っていくのが、変形性股関節症です。

軟骨がすり減ると、

  • 関節の隙間が狭くなる
  • 骨と骨が近づき、硬くなる(骨硬化)
  • 骨のふちにとげができる(骨棘)
  • 骨の中に空洞ができる(骨嚢胞)

といった変化が現れます。あわせて関節を包む膜に炎症が起こり、痛みや水がたまる原因になります。

一次性と二次性

  • 一次性:明らかな原因がなく、加齢に伴って生じるもの。
  • 二次性:もともとの股関節の形に原因があるもの。日本では、臼蓋形成不全を背景とする二次性が多いとされています。受け皿が浅いと、狭い面積に体重が集中するため、軟骨がすり減りやすくなります。

臼蓋形成不全は女性に多く、乳児期の股関節脱臼の既往がある方にもみられます。

症状

痛み

足の付け根(鼠径部)の痛みが典型的です。ただし、お尻、太ももの前や内側、膝の内側に痛みを感じることもあります(放散痛)。「膝を診てもらっていたが、実は股関節だった」という経過をたどる方もいらっしゃいます。

初期は、歩き出しの数歩がつらく、動いているうちに軽くなる(始動時痛)のが特徴です。進行すると、歩いている間じゅう痛む、夜間や安静時にも痛むようになります。

動きの制限

股関節が硬くなり、次のような動作がしにくくなります。

  • 靴下を履く、足の爪を切る(深く曲げる動作)
  • あぐらをかく、脚を開く
  • 車の乗り降り、階段
  • 和式トイレ、正座

「靴下が履きにくくなった」は、進行に気づく分かりやすいサインです。

歩き方の変化

痛む側をかばうため、体を左右に振るような歩き方になることがあります。脚の長さに差が出てくることもあります。

進行の段階

一般に、レントゲン所見をもとに次のように分けられます。

  • 前期:関節の隙間はまだ保たれ、臼蓋形成不全などの形の異常がみられる段階
  • 初期:関節の隙間が狭くなり始め、骨硬化が現れる
  • 進行期:関節の隙間の狭さが明らかになり、骨嚢胞や骨棘が目立つ
  • 末期:関節の隙間がほぼ消失し、骨の変形が進む

ただし、画像の段階と痛みの強さは、必ずしも一致しません。 進行期でも痛みが軽い方もいれば、初期でも強く痛む方もいらっしゃいます。治療方針は、画像だけでなく、痛みの程度と日常生活への支障をあわせて決めていきます。

診断

問診では、いつから・どこが・どんな動作で痛むか、歩ける距離、日常で困っている動作をうかがいます。乳児期に股関節の治療を受けた経験、家族に股関節の病気の方がいるかも重要な情報です。

診察では、股関節を動かせる範囲(曲げる・開く・回す)、痛みが出る角度、脚の長さの左右差、歩き方を確認します。腰が原因である可能性もあわせて確かめます。

レントゲンが診断の中心です。関節の隙間の狭さ、骨硬化、骨嚢胞、骨棘、そして受け皿のかたち(臼蓋形成不全の有無)を確認します。

MRIは、初期の変化や、大腿骨頭壊死症など他の病気との区別が必要な場合に用います。当院にMRIはありませんので、連携医療機関での撮影となります。

治療

保存的な治療

痛みの程度と生活への支障が軽い段階では、保存的な治療が基本になります。

  • お薬:痛みや炎症を抑える内服・外用。
  • 運動療法:股関節まわりの筋力を保ち、動く範囲を維持します。関節への負担を減らすうえで、最も土台になる部分です。 当院には理学療法士が常勤しており、保険診療の範囲で受けていただけます。
  • 生活の工夫:床に座る生活を椅子中心に変える、深くしゃがむ動作を減らす、長時間の立ち仕事や歩行を避ける。
  • 体重の管理:股関節には歩行時に体重の3〜4倍の力がかかるとされます。負担軽減に直結します。
  • 杖の使用:痛む側と反対の手に持つことで、股関節にかかる力を大きく減らせます。

再生医療という選択肢

保存的な治療で改善が十分でない場合に、PRP療法やMFAT(微小細断脂肪組織)といった再生医療が選択肢となることがあります。ご自身の血液や脂肪から取り出した成分を関節内に投与し、痛みの軽減を目指す方法です。

適応となるかどうかは、進行の段階、痛みの程度、これまでの治療経過をふまえて判断します。詳しくは股関節の再生医療のページをご覧ください。

※ 再生医療は自由診療(保険適用外)です。効果には個人差があります。なお、保険診療と自由診療の再生医療を同じ日に行うことはできません。

手術

進行して日常生活への支障が大きい場合には、手術が選択肢となります。人工股関節置換術のほか、年齢や状態によっては骨を切って形を整える手術(骨切り術)が検討されることもあります。

当院では手術は行っておりません。 手術が望ましいと判断した場合には、専門的な治療を行う医療機関へご紹介します。手術後のリハビリテーションについては、当院で継続して受けていただくことができます。

よくあるご質問

Q. 歩いたほうがよいですか、休んだほうがよいですか?
痛みが強い時期に長距離を歩くのは負担になりますが、動かさないと筋力が落ちて悪循環になります。「痛みが翌日に残らない範囲」が目安です。具体的な量は診察でご相談ください。

Q. 進行を止めることはできますか?
すり減った軟骨が元に戻ることはありませんが、負担を減らし筋力を保つことで、進行のしかたや症状の出方は変わり得ます。 早い段階から取り組む意味はここにあります。

Q. 水中歩行はよいと聞きました。
浮力で関節への負担が減るため、運動としては取り組みやすい方法です。ただし、やり方によっては負担がかかることもありますので、始める前に一度ご相談ください。

Q. 杖を使うのは抵抗があります。
お気持ちはよく分かります。ただ、杖は関節を守るための合理的な道具です。使う場面を絞る(外出時だけ、長距離のときだけ)という使い方もあります。

Q. 人工股関節はいつ受けるべきですか?
年齢、痛みの程度、生活への支障、進行の状態などから総合的に判断します。「痛みで生活が制限されているかどうか」が大きな判断材料になります。紹介先とご相談いただくことになりますが、判断の考え方は診察でご説明します。

Q. 何科を受診すればよいですか?
股関節の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、進行の状態に応じた選択肢をご提案します。

この治療を受けられる前に(費用・リスク・自由診療について)

このページでご案内している治療のうち、次のものは自由診療(保険適用外)です。ご検討の前にご確認ください。

  • PRP療法:自由診療(保険適用外)です。標準的な費用は、白血球除去型PRP(PRGF-Endoret®)110,000円/回(計3回が標準)、高用量PRP(Angel™ HD-PRP)330,000円/回(いずれも税込)。料金は1部位ごとに発生します(例:両膝にPRGFを3回で660,000円)。別途、MRI評価・血液検査の費用がかかります。主なリスクは注射部位の一時的な痛み・腫れ・熱感・内出血で、感染等のリスクは低いとされますがゼロではありません。治療効果には個人差があります。用いるPRP調製システムはいずれも国内で承認・認証を受けた医療機器です(Angel™ cPRP System 承認番号 30500BZX00054000/PRGF-Endoret® 認証番号 30500BZI00007000)。
  • 幹細胞治療(MFAT・培養幹細胞):自由診療(保険適用外)です。標準的な費用は、MFAT 600,000円(1部位)/990,000円(2部位)、培養幹細胞治療 総額 2,200,000円(いずれも税込)。培養幹細胞治療は上記が総額で、MFATは別途、診察・検査の費用がかかります。症例によって追加の検査費用が必要となる場合がございます。主なリスクは脂肪採取部位の痛み・腫れ・皮下出血、関節投与後の腫れ・熱感、麻酔によるアレルギー(まれ)、培養工程での資材に伴うアレルギー(まれ)です。治療効果には個人差があります。MFATの調製には国内で承認を受けた高度管理医療機器「LIPOGEMS O キット」(承認番号 30400BZX00092000)を用います。なお、培養に用いる資材には国内承認を受けていないものを使用する場合があります。
  • 入手経路・国内の承認状況:いずれも国内の正規流通経路で導入しています。医師の個人輸入は行っておりません。くわしくは当院の自由診療についてをご覧ください。

関連ページ