TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)
TFCC損傷は、手首の小指側にある軟骨と靭帯の組織が傷つき、痛みが生じる病気です。
TFCCは Triangular Fibrocartilage Complex(三角線維軟骨複合体)の略で、日本語では三角線維軟骨複合体といいます。名前は難しいのですが、役割はシンプルです。手首の小指側でクッションと安定装置の両方を担っている組織とお考えください。
この病気には、はっきりした特徴があります。
- 痛むのは手首の小指側だけ
- 手首をひねる動作で痛む(ドアノブ、タオル、鍵、瓶のふた)
- レントゲンには写らない
とくに3つ目のために、「手首の捻挫」として様子を見られたまま、痛みが長く続いてしまうことがあります。
TFCCとは
手首は、前腕の2本の骨(橈骨・尺骨)と、手の骨がつながってできています。このうち小指側では、尺骨と手の骨の間に隙間があり、そこを埋めるように三角形の軟骨と、それを支える靭帯の集まりが存在します。これがTFCCです。
TFCCには2つの役割があります。
① クッション
手をついたときの衝撃を受け止めます。
② 安定装置
手首をひねる(回内・回外)動作のときに、2本の骨の位置関係を安定させます。
つまり、手をついたときと、ひねったときの両方で働く組織です。そのため、この2つの動作で痛みが出ます。
原因
ケガによるもの
- 転んで手をついた
- 手首をひねった
- スポーツでの受傷:テニス、ゴルフ、野球、体操、剣道など、ラケットや道具を握ってひねる競技
使いすぎによるもの
はっきりしたケガがなくても、手首をひねる動作の繰り返しで少しずつ傷むことがあります。
- 調理(フライパンを振る、鍋を持つ)
- 介護(体位変換・移乗の介助)
- パソコン作業(マウス操作)
- 楽器演奏
- 手工芸
加齢によるもの
TFCCは年齢とともに擦り減っていきます。中高年では、大きなきっかけなく痛みが出ることがあります。
骨の長さの違い
生まれつき、尺骨が橈骨より少し長い(尺骨突き上げ症候群)方では、TFCCが挟まれて傷みやすいことが知られています。
症状
- 手首の小指側が痛む
- 手首をひねると痛む:ドアノブを回す、タオルを絞る、鍵を回す、瓶のふたを開ける
- 手をついたときに痛む:立ち上がるとき、床に手をつくとき
- 小指側に体重をかけると痛む
- 手首を動かすとコリッ、ゴリッという音や感触がする
- 握力が落ちたと感じる
- 進行すると、手首が不安定に感じる
「ドアノブが回せない」「タオルが絞れない」という訴えは、この病気を強く疑う手がかりになります。
見逃されやすい理由
TFCCは軟骨と靭帯でできているため、レントゲンには写りません。
そのため、次のような経過をたどることがあります。
- 手首を痛めて受診する
- レントゲンで「骨に異常なし」と言われる
- 「捻挫でしょう」と湿布で様子を見る
- 数か月たっても痛みが引かない
レントゲンで骨に異常がないことと、手首に問題がないことは別のことです。
とくに、痛む場所が小指側に限られていて、ひねる動作で痛むという特徴があれば、TFCC損傷を念頭に置いて確かめる価値があります。
当院では超音波(エコー)検査を院内で行えますので、TFCC周囲の状態や炎症の程度を、その場で観察することができます。より詳しい評価が必要な場合には、MRI検査をご案内します(連携医療機関での撮影となります)。
なお、レントゲンでも尺骨と橈骨の長さの関係は確認できますので、突き上げの要素があるかどうかは分かります。
診断
問診では、いつから・どんなきっかけで・どの動作で痛むか、お仕事やスポーツでの手の使い方をうかがいます。
診察では、手首の小指側を押して痛む場所を確かめます。手首をひねる、小指側に傾ける、体重をかけるといった動作で痛みが誘発されるかを調べる徒手検査も行います。手首の不安定さの有無も確認します。
レントゲンで骨の状態と、尺骨・橈骨の長さの関係を確認します。超音波(エコー)検査、必要に応じてMRIで、TFCCの状態を評価します。
治療
保存的な治療が基本です
① 安静・固定
手首をひねる動作を避けることが最も大切です。サポーターや装具で手首を固定し、TFCCにかかる負担を減らします。とくに、ひねる動きを制限するタイプの装具が用いられます。
② 手の使い方の見直し
- ドアノブはレバー式に替える、または手のひら全体で押す
- タオルは縦に持って絞るのではなく、押し当てて水気を取る
- 瓶のふたはオープナーを使う
- 重い物は両手で、体に近づけて持つ
- マウスは縦型(エルゴノミック)のものを検討する
③ お薬
痛みや炎症を抑える外用・内服を用います。
④ 注射
症状が強い場合、局所への注射という選択肢について、ご説明することがあります。
⑤ リハビリテーション
痛みが落ち着いてきたら、手首まわりの筋力と、前腕の使い方を整えます。当院には理学療法士が常勤しており、保険診療の範囲で受けていただけます。
保存的な治療には時間がかかります。 数か月単位で経過をみることも珍しくありません。「なかなか良くならない」と感じられるかもしれませんが、手首をひねる動作をどれだけ減らせるかで経過が変わります。
手術
保存的な治療で改善しない場合や、手首の不安定さが強い場合には、手術が検討されます。関節鏡での処置や、尺骨が長い場合には骨を短くする手術などがあります。
当院では手術は行っておりません。 必要と判断した場合には、専門的な治療を行う医療機関へご紹介します。手術後のリハビリテーションについては、当院で継続して受けていただくことができます。
手首の小指側が痛む、他の原因
TFCC損傷以外にも、手首の小指側が痛む原因はあります。診察では次のような病気との区別を行います。
尺側手根伸筋腱炎・腱鞘炎
手首の小指側を通る腱の炎症です。ラケット競技やゴルフをする方に多く、TFCC損傷と症状が似ています。腱の走行に沿って痛むこと、腱が動くときに引っかかる感じがあることが手がかりになります。
豆状骨・三角骨の問題
手首の小指側にある小さな骨の障害や、過去の骨折の影響。
尺骨突き上げ症候群
生まれつき尺骨が長い、あるいは橈骨の骨折後に相対的に長くなった状態で、TFCCが挟まれます。TFCC損傷の背景にあることも多く、レントゲンで確認します。
ギヨン管症候群
手首の小指側で尺骨神経が圧迫されるもの。痛みよりも小指と薬指のしびれが主体です。自転車のハンドルを長時間握る方に起こることがあります。
関節リウマチ
手首の腫れが両側にあり、他の関節の腫れや朝のこわばりを伴う場合。
痛風・偽痛風
急に強く腫れて熱をもつ場合。
いずれも診察と検査で区別できます。痛む場所を指1本で示せると、鑑別が進みやすくなります。
よくあるご質問
Q. レントゲンで異常なしと言われましたが、痛みが続きます。
TFCCは軟骨と靭帯でできているため、レントゲンには写りません。小指側の痛みで、ひねる動作がつらい場合は、TFCC損傷の可能性を含めて確かめる価値があります。
Q. 手首の捻挫と言われました。
広い意味では手首を痛めた状態ですが、TFCCが傷んでいる場合は、その部分に応じた対応が必要です。数週間たっても改善しない場合は、改めてご相談ください。
Q. どのくらいで治りますか?
数週間で軽くなる方もいれば、数か月かかる方もいます。ひねる動作をどれだけ減らせるかが、経過を大きく左右します。
Q. サポーターはずっと着けるのですか?
痛みが強い時期や、負担のかかる作業のときに使うのが基本です。長期間の固定は筋力低下につながるため、外す時期も含めてご相談します。
Q. スポーツは続けられますか?
競技と痛みの程度によります。ひねる動作が多い競技では、一定期間お休みいただくことがあります。テーピングや装具で対応できる場合もありますので、ご相談ください。
Q. 何科を受診すればよいですか?
手首の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、超音波で状態を確かめたうえで対応します。