膝蓋大腿関節症

膝蓋大腿関節症は、膝のお皿(膝蓋骨)と太ももの骨の間の軟骨がすり減り、痛みが生じる病気です。

「変形性膝関節症」というと、膝の内側がすり減るタイプを思い浮かべる方が多いと思います。実際、そちらが最も多いのですが、膝には「お皿の裏側」というもうひとつの関節面があり、そこがすり減ることもあります。

この2つは、痛む場面がはっきり違います。

  • 内側のタイプ:歩き始め、長く歩いたとき
  • お皿の裏のタイプ:階段の下り、長く座ったあとの立ち上がり、しゃがみ込み

「歩くのは平気なのに、階段の下りだけがつらい」——そういう方は、お皿の裏側に原因があるかもしれません。

お皿の裏で何が起きているのか

膝のお皿(膝蓋骨)は、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)と、すねの骨をつなぐ腱の中にある骨です。膝を曲げ伸ばしするとき、お皿は太ももの骨の溝の上を滑って動きます。

この滑る面は軟骨で覆われていますが、次のような条件で負担が集中すると、軟骨がすり減っていきます。

① 膝を深く曲げるほど、お皿にかかる力が大きくなる
平地を歩くときにお皿にかかる力は体重の半分程度ですが、階段の下りでは体重の3〜4倍以上、しゃがみ込むとさらに大きくなるとされています。

② お皿の通り道がずれる
太ももの筋肉のバランスが崩れると、お皿が溝の中央を通らず、外側に寄って滑るようになります。すると、片側だけに圧力が集中します。

③ もともとのかたち
お皿の形や、太ももの骨の溝の深さには個人差があり、もともと外れやすい・ずれやすい方がいらっしゃいます。

症状

  • 階段を下りるときに痛む(上るときより下りるほうがつらい)
  • 長時間座ったあと、立ち上がるときに痛む(映画館や車での長距離移動のあと)
  • しゃがみ込む、正座がつらい
  • お皿のまわり、あるいはお皿の奥が痛む
  • 膝を曲げ伸ばしすると、ザラザラ・ゴリゴリという感触がする
  • お皿を押さえながら膝を動かすと痛む

痛む場所を「ここ」と一点で示しにくく、「このあたり」とお皿全体を指す方が多いのも特徴です。

起こりやすい方

  • 中高年の女性:最も多くみられます
  • 膝のお皿が外れた経験のある方(膝蓋骨脱臼・亜脱臼)
  • もともとお皿がずれやすいかたちの方
  • 太ももの前の筋力が落ちている方
  • 膝に負担のかかる仕事・スポーツ:しゃがむ作業、階段の上り下りが多い、ジャンプ競技

診断

問診では、どの動作で痛むかを詳しくうかがいます。「階段の下り」「長く座ったあと」というキーワードが出れば、この病気を疑います。

診察では、お皿のまわりを押して痛む場所、お皿を動かしたときの痛みや軋み、お皿の位置と動き方、太ももの筋力(とくに内側の筋肉)を確認します。膝の内側の関節面に問題がないかも、あわせて確かめます。

レントゲンでは、膝を曲げた状態で、お皿の裏側を撮影する特別な角度(スカイライン撮影などと呼ばれます)を用います。通常の正面・側面像だけでは、お皿の裏側の状態は分かりにくいためです。関節の隙間の狭さ、骨のとげ、お皿の位置のずれを確認します。

MRIは、軟骨の状態を詳しく調べる必要がある場合に用います。連携医療機関での撮影となります。

治療の鍵は、太ももの筋バランスです

膝蓋大腿関節症では、お皿の通り道を整えることが治療の中心になります。そのために重要なのが、太ももの筋肉のバランスです。

なぜ筋バランスなのか

お皿は、太ももの筋肉に引っ張られて動きます。このうち、内側の筋肉(内側広筋)は、お皿が外側にずれるのを防ぐ働きをしています。

ところが、この内側の筋肉は衰えやすく、回復に時間がかかるという性質があります。膝が痛くて動かさない期間があると、真っ先に落ちるのがここです。

内側が弱ると、外側に引っ張る力が相対的に強くなり、お皿が外に寄って滑るようになります。すると外側の軟骨に圧力が集中し、痛みが強まる——という循環に入ります。

リハビリテーション

当院には理学療法士が常勤しており、保険診療の範囲で受けていただけます。

  • 内側広筋を意識した筋力トレーニング
  • お皿の動きを改善する徒手的な調整
  • 股関節・体幹の機能改善:股関節が弱いと、膝が内側に入る動作になり、お皿への負担が増えます
  • ふとももの外側・腸脛靭帯の柔軟性改善

「膝が痛いから太ももを鍛える」という単純な話ではなく、どの筋肉をどう使うかが大切になります。自己流のトレーニングで悪化することもありますので、一度評価を受けていただくことをおすすめします。

そのほかの治療

  • お薬:痛みや炎症を抑える外用・内服
  • 装具・テーピング:お皿の位置を補助するサポーターやテーピングが有効なことがあります
  • 生活の工夫:階段では手すりを使う、深くしゃがむ動作を減らす、長時間座るときは時々膝を伸ばす
  • 体重の管理

保存的な対応で改善が乏しい場合には、手術が検討されることがあります。当院では手術は行っておりません。 必要と判断した場合には、専門的な治療を行う医療機関へご紹介します。

ご自宅でできること

  • 座っているとき、時々膝を伸ばす:膝を曲げたまま長時間過ごすと、お皿への圧力が続きます。デスクワークや映画鑑賞のときは、意識的に伸ばしてください
  • 階段は手すりを使う:とくに下り。手すりに体重を分散させるだけで、お皿にかかる力は大きく変わります
  • 深くしゃがまない:床の物を取るときは、膝を深く曲げるより、片膝をつく・体を近づけるほうが負担が減ります
  • 太ももの前の筋肉を保つ:椅子に座ったまま片脚をゆっくり伸ばし、5秒キープして下ろす。左右10回ずつから。痛みが出ない範囲で
  • 正座を避ける:椅子中心の生活に

長く座る時間が多い方へ

膝蓋大腿関節症では、膝を曲げたまま長時間過ごすことが症状を悪化させます。「映画館膝(シアターサイン)」という呼び方があるほど、この関係ははっきりしています。

膝を90度以上曲げた状態が続くと、お皿が太ももの骨に押しつけられ続けます。同じ姿勢で圧力がかかり続けることが、動かすより負担になるのです。

デスクワークの方

  • 30分〜1時間に一度、膝を伸ばす。立ち上がれない場面でも、机の下で片脚ずつ伸ばすだけで違います
  • 椅子は深く座り、膝が深く曲がりすぎない高さに
  • 足を組む癖があると、片側に負担が偏ります

車の運転が多い方

  • 座席を近づけすぎると膝が深く曲がります。無理のない範囲で少し遠ざける
  • 長距離では1〜2時間ごとに降りて、膝を伸ばして歩く

移動・観劇・会議など

  • 通路側の席を選ぶと、膝を伸ばしやすくなります
  • 立ち上がる前に、座ったまま数回膝を伸ばしてからにすると、最初の一歩が楽になることがあります

飛行機・新幹線

  • 前の座席との間隔が狭い席では、膝を伸ばせません。可能であれば席を選ぶ

「動かないほうが楽」ではなく「同じ姿勢を続けないほうが楽」というのが、この病気の特徴です。痛みがあるときほど動かしたくなくなりますが、時々伸ばすという小さな習慣が効いてきます。

よくあるご質問

Q. 変形性膝関節症とは違うのですか?
広い意味では同じ「膝の変形性関節症」ですが、すり減る場所が違います。 膝の内側がすり減るタイプが最も多く、こちらはお皿の裏側です。両方が同時にある方もいらっしゃいます。

Q. 階段の上りは平気なのに、下りだけ痛いのはなぜですか?
下りるときは、着地の衝撃を受け止めながら、膝を曲げた状態で体を支えることになります。この姿勢がお皿に最も強い力をかけるためです。

Q. 膝を鍛えれば治りますか?
筋力は大切ですが、どの筋肉をどう使うかが重要です。自己流のトレーニングで、かえってお皿への負担が増えることもあります。評価を受けたうえで進めることをおすすめします。

Q. 音がするのは悪化しているサインですか?
必ずしもそうとは限りません。音だけで痛みがなければ、経過をみることもあります。ただし、痛みを伴う場合は確かめておく価値があります。

Q. サポーターは効きますか?
お皿の位置を補助するタイプが有効なことがあります。適したものは状態によって異なりますので、診察でご相談ください。

Q. 何科を受診すればよいですか?
膝の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、どの部分に原因があるかを確かめたうえで対応をご提案します。

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