石灰沈着性腱板炎

石灰沈着性腱板炎は、肩の腱(腱板)にカルシウムの結晶が沈着し、それが急激な炎症を起こして激しい痛みを生じる病気です。

この病気には、他の肩の病気にはない、はっきりした特徴があります。

痛みが、突然、非常に強く始まるという点です。

「夜中に突然痛み出して、一睡もできなかった」「腕をまったく動かせず、救急外来を受診した」——こうした経過をたどる方が少なくありません。肩の病気の中で、最も痛みが強いもののひとつです。

そして、もうひとつ大切な特徴があります。多くの場合、数日から数週間で症状が落ち着いていくことです。

何が起きているのか

肩の関節は、腱板という4つの腱に包まれて安定しています。この腱の中に、何らかの理由でカルシウムの結晶(石灰)が沈着することがあります。

沈着した石灰は、しばらくの間、痛みを起こさずにそこにあることもあります。健康診断や別の目的で撮ったレントゲンで偶然見つかることもあるほどです。

問題が起きるのは、この石灰が溶け出すときです。石灰が液体化して周囲に漏れ出すと、体はそれを異物と認識し、激しい炎症反応を起こします。これが、あの強烈な痛みの正体です。

つまり、痛みが強いのは「体が石灰を処理しようとしている」ためであり、その過程が終われば痛みは引いていきます。 石灰そのものが吸収されて消えることも珍しくありません。

なぜ石灰が沈着するのかは、まだ完全には分かっていません。40〜50代の女性に多くみられます。

症状

急性期(数日〜1週間程度)

  • 突然、肩に激しい痛みが起こる
  • 夜中や明け方に始まることが多い
  • 腕をまったく動かせない、少し動かすだけで激痛
  • じっとしていても痛む、痛みで眠れない
  • 肩が腫れて熱をもつことがある
  • 熱が出ることもある

痛みの強さから、「肩が壊れたのではないか」「何か重大な病気ではないか」と不安になられる方が多くいらっしゃいます。

亜急性期・慢性期

急性期を過ぎると、痛みは徐々に和らいでいきます。ただし、動かしたときの痛みや、動かしにくさがしばらく残ることがあります。石灰が残ったまま、痛みだけが落ち着く場合もあります。

五十肩との違い

同じ「肩が痛い」でも、五十肩(肩関節周囲炎)とは経過が大きく異なります。

石灰沈着性腱板炎五十肩
発症突然(時間まで覚えていることが多い)徐々に(いつからか曖昧)
痛みの強さ非常に強い(救急受診も)中等度〜強い
経過数日〜数週間で軽快することが多い数か月〜1年以上かかることがある
レントゲン石灰が写る通常は異常なし
動かしにくさ痛みのため動かせない関節が固まって動かない(拘縮)

「いつからか分からないが、だんだん上がらなくなった」は五十肩、「何時何分に突然痛くなった」は石灰沈着性腱板炎——この違いが、最も分かりやすい目安です。

五十肩については五十肩(肩関節周囲炎)のページをご覧ください。

診断

問診では、いつ・どのように痛みが始まったかを詳しくうかがいます。「突然だったか、徐々だったか」がこの病気を疑う最大の手がかりです。

診察では、肩を動かせる範囲、押して痛む場所、腫れや熱感を確認します。

レントゲンで診断がつきます。腱板の部分に、白い石灰の影が写ります。 これがこの病気の決め手です。

超音波(エコー)検査では、石灰の状態(硬いままか、溶け出しているか)や、周囲の炎症の程度を観察できます。当院では院内で行えますので、その場で確認できます。石灰が溶け出している状態であれば、次に述べる処置の適応を判断する材料になります。

治療

急性期:炎症を抑えることが最優先

① お薬
炎症と痛みを抑える内服・外用を用います。痛みが非常に強い時期ですので、我慢せずお伝えください。

② 注射
肩の中への注射で、炎症を抑える方法があります。急性期の強い痛みに対して行われることがあります。

③ 石灰の吸引(穿刺)
石灰が溶け出して液状になっている段階であれば、針を刺して吸い出すことで、痛みが速やかに軽くなることがあります。超音波で石灰の状態を見ながら行います。

④ 安静と冷却
腕を動かさずに済むよう、三角巾などで支えることがあります。熱をもっている時期は冷やします。

回復期:動きを取り戻す

痛みが落ち着いてきたら、肩が固まってしまわないよう、少しずつ動かしていきます。 痛みが強い時期に動かさなかった期間が長いと、そのまま拘縮(五十肩のような状態)に移行してしまうことがあるためです。

当院には理学療法士が常勤しており、保険診療の範囲で運動療法を受けていただけます。

繰り返す場合・慢性化した場合

石灰が硬いまま残り、痛みが続く場合には、体外衝撃波による治療や、手術(関節鏡での摘出)が検討されることがあります。当院で行える対応と、専門的な治療を行う医療機関へご紹介すべき場合とを、診察のうえでご説明します。

痛みが強すぎるときの受診先について

この病気の急性期の痛みは、夜間や休日に突然始まることが多く、耐えがたいものです。

次のような場合は、時間外であっても救急対応が可能な医療機関へご相談ください。

  • 痛みでまったく眠れない、動けない
  • 高い熱を伴う
  • 肩が赤く腫れて、強い熱感がある(感染との区別が必要です)
  • 肩の外傷(転倒・強打)のあとである

一方、痛みはあるものの落ち着いて過ごせる場合は、平日の診療時間内にご受診いただければ十分です。 石灰沈着性腱板炎そのものは、緊急に手術が必要になる病気ではありません。

急性期をどう乗り切るか

痛みのピークは数日で過ぎていくことが多いのですが、その数日が非常につらい時期です。受診までの間、あるいは治療を始めてから痛みが引くまでの間、少しでも楽に過ごすための工夫をご紹介します。

腕を吊る・支える
三角巾がなければ、大きめのスカーフやストールで代用できます。腕の重みが肩にかからないだけで、痛みはかなり軽くなります。

寝るときの姿勢
仰向けで痛む場合は、痛む側の腕の下にクッションや丸めたタオルを入れて、腕がだらんと下がらないようにします。上体を少し起こした姿勢(背中にクッションを入れる、リクライニングの椅子で寝る)のほうが楽な方もいらっしゃいます。

冷やす
熱をもって腫れている時期は、保冷剤をタオルで包んで15〜20分。直接肌に当てないでください。

痛む動作を避ける
腕を上げる、後ろに回す、体から離す——これらは特に痛みが出やすい動きです。服は前開きのものを選ぶと、着替えが楽になります。

やってはいけないこと

  • 無理に動かして「固まらないように」しようとする:急性期は逆効果です
  • 強く揉む・叩く:炎症が強まります
  • 温める:熱をもっている時期は避けてください

痛みを我慢しない
処方されたお薬は、指示どおりに使ってください。「痛み止めは体に悪いから」と我慢される方がいらっしゃいますが、急性期は炎症を抑えることが治療そのものです。効かない・足りないと感じる場合は、自己判断で市販薬を追加せず、ご相談ください。

よくあるご質問

Q. なぜ突然、こんなに痛くなったのですか?
沈着していた石灰が溶け出し、体がそれに強く反応して炎症を起こしているためです。痛みの強さは、体が石灰を処理しようとしている勢いを表しているとお考えください。

Q. どのくらいで治りますか?
急性期の激しい痛みは、数日から1〜2週間で和らいでいくことが多くみられます。ただし、動かしたときの痛みがしばらく残ることがあります。

Q. 石灰は消えますか?
吸収されて消えることも、残ることもあります。残っていても、痛みがなければ治療の必要はありません。

Q. 再発しますか?
別の場所に、あるいは同じ場所に、再び起こることがあります。ただし、必ず繰り返すわけではありません。

Q. 動かしたほうがよいですか、安静にすべきですか?
急性期は安静、痛みが落ち着いてきたら少しずつ動かす、という順序です。動かさない期間が長引くと肩が固まってしまうため、いつから動かすかは診察でご案内します。

Q. 五十肩と言われたことがありますが、違うのでしょうか?
発症のしかたと経過が異なります。レントゲンで石灰が写れば区別がつきます。両方が関係していることもあります。

Q. 何科を受診すればよいですか?
肩の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、レントゲンと超音波で状態を確かめたうえで対応します。

この治療を受けられる前に(費用・リスク・自由診療について)

このページでご案内している治療のうち、次のものは自由診療(保険適用外)です。ご検討の前にご確認ください。

  • 体外衝撃波治療:対象となる疾患・条件により、保険診療となる場合と自由診療(保険適用外)となる場合があります。自由診療の場合の標準的な費用は、初回 5,500円/2〜3回目 8,800円/4回目以降の一連治療 5,500円(いずれも税込・2026年10月改定)。一連の治療は、前回の治療から2ヶ月以内を基準とし、2ヶ月を超えて間隔があいた場合はあらためて初回からの料金となります。主なリスクは照射部位の一時的な痛み・発赤・内出血です。治療効果には個人差があります。用いる機器は国内で承認を受けた医療機器です(BTL-6000 Focus® 承認番号 30300BZX00272000)。
  • 入手経路・国内の承認状況:いずれも国内の正規流通経路で導入しています。医師の個人輸入は行っておりません。くわしくは当院の自由診療についてをご覧ください。

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