皮脂欠乏性湿疹(乾燥性湿疹)

皮脂欠乏性湿疹は、皮膚の乾燥が進み、そこに炎症が加わって湿疹になった状態です。乾燥性湿疹、皮脂欠乏性皮膚炎とも呼ばれます。

このページで最もお伝えしたいのは、次の点です。

「乾燥」と「湿疹」は、別の段階です。そして、必要な薬が違います。

乾燥の段階なら、保湿剤で対応できます。しかし湿疹になった段階では、保湿剤だけでは治りません。 炎症を抑える薬が必要になります。

「保湿しているのに良くならない」という方の多くは、すでに湿疹の段階に進んでいるのに、乾燥の段階の対応を続けておられます。

乾燥から湿疹へ、どう進むのか

段階1:乾燥(皮脂欠乏症)
皮膚がカサカサし、白い粉をふく。すねに細かい亀裂が入り、ひび割れた地面のような模様(亀甲状といいます)に見える。この段階では、まだ強いかゆみはないこともあります。

段階2:かゆみが出る
乾燥した皮膚は、刺激に対して敏感になります。衣類がこすれる、汗をかく、暖まる——といったことでかゆみが出るようになります。

段階3:掻いてしまう
かゆいので掻く。掻くと皮膚のバリアがさらに壊れ、炎症が起こります。

段階4:湿疹になる(皮脂欠乏性湿疹)
赤み、ブツブツ、じくじく、かさぶた。ここまで来ると、保湿だけでは戻れません。

段階5:慢性化
掻き続けることで皮膚が厚く硬くなり(苔癬化)、色素沈着が残る。かゆみがさらに出やすくなり、循環から抜けにくくなります。

この進み方を知っておくと、「今どの段階か」が分かり、必要な対応が見えてきます。

症状

  • すね(下腿)が最も多く、次いで腰、背中、わき腹、太もも
  • 白い粉をふく
  • 皮膚にひび割れたような細かい線が入る(亀甲状)
  • 赤みを帯びてくる
  • かゆみが強く、とくに入浴後と就寝時につらい
  • 掻き傷、じくじく、かさぶた
  • 慢性化すると、皮膚が厚く硬くなる

起こりやすい方

  • 高齢の方:加齢に伴い、皮脂と保湿成分が減少します
  • 秋から冬:空気の乾燥、暖房
  • 入浴の習慣:熱いお湯、長湯、ナイロンタオルでこする
  • アトピー素因のある方
  • 透析を受けている方
  • 甲状腺のはたらきが低下している方

保湿剤とステロイドの使い分け

多くの方が迷われる点ですので、はっきりお伝えします。

保湿剤にできること

  • 皮膚の水分を保つ
  • 乾燥が進むのを防ぐ
  • 湿疹が治ったあと、再発を防ぐ

保湿剤は「守り」の薬です。今ある炎症を鎮める力はありません。

ステロイド外用薬にできること

  • 今ある炎症とかゆみを抑える
  • 掻いてしまう循環を断つ

ステロイドは「攻め」の薬です。炎症がある段階では、これがなければ前に進みません。

実際の使い方

赤みやかゆみのある部分にはステロイド、それ以外の乾燥した部分には保湿剤——というのが基本の形です。両方を並行して使います。

「ステロイドは怖いから、保湿だけで頑張る」という方が多いのですが、その間ずっとかゆみが続き、掻き壊しが進みます。 結果として、より長く、より強い薬が必要になることがあります。

炎症が落ち着いたらステロイドを減らし、保湿剤中心に切り替えます。この切り替えのタイミングを一緒に決めていくのが、診察の役割です。自己判断で長く使い続けることも、早くやめすぎることも、どちらも避けたいところですので、経過をみながら調整しましょう。

掻いてしまう循環をどう断つか

「掻かないでください」と言われても、かゆいものはかゆい。これは意志の問題ではありません。

かゆみは、掻くことで一時的に和らぎます。 しかし掻いた皮膚はさらに敏感になり、次はもっとかゆくなる——この循環が、慢性化の本体です。

循環を断つには、かゆみそのものを減らすことが必要です。

① 炎症を抑える
上に述べたステロイド外用が、かゆみを減らす最も確実な方法です。

② かゆみ止めの内服
かゆみが強く、夜眠れない場合には、抗ヒスタミン薬などの内服を併用します。眠りを妨げるほどのかゆみは、我慢する必要はありません。

③ 掻く代わりの手段を用意する

  • 冷やす(保冷剤をタオルで包んで軽く当てる)
  • 保湿剤を塗る
  • 手のひらで軽く押さえる

④ 無意識の掻破を減らす

  • 爪を短く整える
  • 寝るときに木綿の手袋
  • 就寝前に保湿とかゆみ対策をしておく

⑤ 掻いてしまっても自分を責めない
掻いてしまうのは、皮膚がかゆいからです。責める必要はありません。掻かずに済む状態をつくることが治療ですので、そこは一緒に取り組みましょう。

診断

問診では、いつから、どの部位に、どんなふうに出ているか、入浴の習慣、使っている保湿剤や市販薬、飲んでいるお薬、既往歴(透析・甲状腺・糖尿病など)をうかがいます。

診察では、皮膚の乾燥の程度、亀甲状の亀裂、赤み・湿疹の範囲、掻き傷、慢性化した部分を確認します。

皮膚に見た目の変化が乏しいのに強いかゆみがある場合や、経過が長い場合には、血液検査で内科的な原因(腎臓・肝臓・甲状腺・血糖など)を確認することがあります。

疥癬が疑われる場合には、皮膚の一部を採って顕微鏡で確認します。

治療

塗り薬

  • 炎症のある部分:ステロイド外用薬。部位と程度に応じて強さを選びます
  • 乾燥している部分:保湿剤。1日2回以上、入浴後は5分以内に

内服

かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬などを併用します。

スキンケアの見直し

塗り薬と同じくらい重要です。 とくに入浴の仕方(お湯の温度、時間、洗い方)を見直すことで、経過が大きく変わります。具体的な方法は皮膚が乾燥して粉をふく・かゆいのページでご説明しています。

治ったあとが大切です

湿疹が治っても、乾燥しやすい体質そのものは変わりません。 保湿を続けることで、再発を防げます。

「治ったからやめる」ではなく、「治ったから守りに切り替える」とお考えいただくと、毎年の繰り返しから抜け出しやすくなります。

塗り薬の使い方で、結果が変わります

同じ薬でも、塗り方によって効き方が変わります。診察でもお伝えしていますが、あらためて整理します。

① 量が足りていないことが最も多い

塗る量の目安として、大人の人差し指の先から第一関節まで出した量で、手のひら2枚分の面積という考え方があります。実際に測ってみると、多くの方が「思っていたよりずっと多い」と感じられます。

塗ったあとにティッシュが軽く貼りつく程度が、足りている目安です。すり込む必要はありません。

② こすらず、のせるように

すり込むと摩擦で皮膚を傷めます。やさしくのせて、薄く広げるだけで十分です。とくにかゆい部分をすり込むと、その場は気持ちよくても悪化します。

③ 塗る順番

一般に、保湿剤を先に全体へ、そのあとステロイドを必要な部分に、という順で塗ります。逆でも構いませんが、混ざらないよう少し時間をあけると分かりやすくなります。

④ 入浴後5分以内

皮膚に水分が残っているうちに塗ると、保湿の効果が高まります。体を拭いたら、着替える前に脱衣所で塗ってしまうのが確実です。

⑤ 塗り忘れやすい場所

背中、腰、ふくらはぎの裏側、足首。手が届きにくい場所ほど乾燥しやすいという皮肉があります。ローションタイプを使う、柄のついた塗布具を使う、ご家族に手伝ってもらう——方法はいくつもあります。届かないことを我慢しないでください。

⑥ 続けられる形にする

理想的な方法でも、続かなければ意味がありません。朝は簡単に、夜はしっかりでも構いません。ご自身の生活の中で無理なく続けられる形を、一緒に決めていきましょう。

季節との付き合い方

皮脂欠乏性湿疹は、季節性がはっきりした病気です。この特徴を利用すると、対策が立てやすくなります。

秋(9月〜10月):ここが始めどき
まだ症状が出ていない時期から保湿を始めると、冬の悪化を抑えられます。「かゆくなってから」ではなく「かゆくなる前から」が、この病気の要点です。

冬(11月〜2月):最も注意が必要な時期
空気の乾燥、暖房、熱いお風呂——条件がそろいます。保湿の回数を増やし、入浴の見直しを徹底する時期です。

春(3月〜5月)
症状は軽くなっていきますが、この時期にやめてしまうと、秋にまた同じところから始まります。 頻度を減らしてでも続けるのがおすすめです。

夏
症状が落ち着く方が多い時期です。ただし、エアコンによる乾燥、汗による刺激で悪化する方もいらっしゃいます。また、夏でも入浴で熱いシャワーを浴びる習慣があると、乾燥は進みます。

毎年同じ時期に繰り返している方は、そのパターンを診察でお伝えください。 「例年10月頃から」と分かっていれば、その手前から準備を始められます。

よくあるご質問

Q. 保湿だけで治せませんか?
乾燥の段階なら可能です。ただし、赤みやかゆみのある湿疹になっている場合は、保湿だけでは治りません。今どの段階かを診察で確かめて、必要な薬を使い分けましょう。

Q. ステロイドを使うと皮膚が薄くなると聞きました。
長期間、強い薬を漫然と使い続けた場合に起こりうる副作用です。部位と程度に応じた強さを、期間を決めて使えば、過度に心配する必要はありません。 減らすタイミングも含めて診察で調整します。

Q. どのくらいで治りますか?
炎症が落ち着くまでに1〜2週間程度、掻き壊しや慢性化がある場合はさらに時間がかかります。保湿とスキンケアを続けられるかどうかで、経過が変わります。

Q. 毎年繰り返しています。
乾燥しやすい体質は変わらないため、繰り返すこと自体は自然です。ただし、症状が出る前から保湿を始めておくことで、程度を抑えられます。秋口からのケアをおすすめします。

Q. 家族にうつりますか?
うつりません。ただし、家族の中で複数の方が同時にかゆがっている場合は、疥癬など別の原因を考える必要がありますので、ご相談ください。

Q. 何科を受診すればよいですか?
皮膚の乾燥と湿疹は皮膚科でご相談いただけます。当院では皮膚科専門医が診察のうえ、必要に応じて検査を行い、塗り薬の使い分けとスキンケアをご提案します。

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