70代以降の健康寿命を守る

「自分の足で歩き続けたい」「人の世話にならず、元気に過ごしたい」――70代以降は、関節・骨・筋肉のケアが、これからの生活の質を大きく左右します。

この年代でとくに大切なのは、「動ける体」を守ることです。転倒とそれに続く骨折は、歩く力が落ちるきっかけになりやすい一方で、転倒には対策できる要因が多くあります。当院は「健康寿命の最長化」を掲げ、痛みをやわらげるだけでなく、動ける体を保つことを大切に診療しています。このページでは、70代以降の方とそのご家族に向けて、転倒・骨折を防ぎ、「動ける」を守るためにできることをご紹介します。

「年だから仕方ない」が生む悪循環

膝や腰が痛む、歩くのが遅くなった、つまずきやすくなった――こうした変化を「年だから仕方ない」とあきらめて、外出や運動を控えてしまう方は少なくありません。

しかし、動かない時間が長くなるほど、脚の筋力やバランス能力はさらに低下します。すると、ますます歩くのが不安になり、活動がもっと減る――この悪循環が、「動けない」への一番の近道になってしまいます。年齢そのものは変えられませんが、この悪循環は、適切な対策で断ち切ることができます。

ロコモとフレイル――「動ける」が低下しているサイン

  • ロコモティブシンドローム(ロコモ):骨・関節・筋肉・神経など「体を動かす仕組み(運動器)」の働きが低下し、移動する能力が落ちた状態です。進行すると、つまずきやすくなる、歩行が不安定になる、階段や立ち上がりがつらくなるといった変化が現れ、転倒しやすくなります。
  • フレイル(虚弱):加齢にともなって心身の活力が全体に低下した状態です。筋肉量の減少、疲れやすさ、活動量の低下、体重減少などが特徴で、ロコモと重なり合いながら進み、転倒・骨折の大きな危険因子になります。

大切なのは、ロコモやフレイルは「年齢」ではなく「状態」だということです。状態であれば、運動や生活の工夫で改善をめざすことができます。

転倒がきっかけになりやすい骨折

70代以降の骨折の多くは、転倒をきっかけに起こります。とくに起こりやすいのは、太ももの付け根(大腿骨近位部)と背骨(椎体の圧迫骨折)の骨折です。これらの骨折は、歩く力が落ちるきっかけとなり、その後の生活の質(QOL)に大きく影響することがあります。また、一度骨折すると次の骨折が起こりやすくなること(骨折の連鎖)も知られています。骨折の連鎖の仕組みについて詳しくは、骨粗鬆症(疾患の解説)をご覧ください。

一方で、知っておいていただきたいのは、転倒には防げるものが多いということです。転倒には、筋力・バランス能力・歩く速さといった体の要因と、段差や滑りやすい床といった住まいの環境要因が関わっており、その多くは対策が可能です。「転ばない体づくり」と「転びにくい環境づくり」、そして「転んでも骨折しにくい骨を保つこと」。この3つを組み合わせることが、70代以降の「動ける」を守る基本になります。

転倒を防ぐためにできること

1. 筋力とバランスを保つ運動

転倒予防の中心は、脚の筋力とバランス能力を保つ運動です。当院では、理学療法士によるリハビリテーションを通じて、次のような運動・指導を行っています。

  • 下肢(脚)の筋力強化:立ち座りの練習や無理のないスクワットなど
  • バランス訓練:ふらつきにくい体をつくる練習
  • 歩行指導:安全で効率のよい歩き方の練習
  • 姿勢・動作の改善:日常の動きの中の転倒リスクを減らす工夫

運動は、ロコモ・フレイルの進行予防にも重要です。「どんな運動をどのくらいすればよいか」は体の状態によって異なるため、一人ひとりに合わせてご提案します。→ リハビリテーション科

2. 住まいの環境を整える

転倒は、外出先よりも住み慣れた自宅の中で起こることが少なくありません。次のような工夫が転倒予防に役立ちます。

  • 部屋の中の段差をなくす・つまずきやすい敷物や電気コードを整理する
  • 滑りやすい床(浴室・脱衣所・階段)に滑り止めを敷く
  • 夜間の足元を明るくする(廊下・トイレまでの動線に照明を)
  • 立ち座りの多い場所(トイレ・浴室・玄関)に手すりを検討する

3. 足に合った靴を選ぶ

履き物も、転倒に関わる身近な要因です。かかとまで覆われてしっかり固定できる、サイズの合った、靴底が滑りにくい靴がおすすめです。室内でも、脱げやすいスリッパやサンダルはつまずきのもとになるため、かかとのある室内履きへの変更を検討してみてください。

4. 骨の状態を知っておく

どれだけ注意していても、転倒を完全に防ぐことは難しい場合があります。だからこそ、「転んでも骨折しにくい骨」を保っておくことが大切です。骨の強さは、骨密度検査で数値として確認できます。検査と予防の詳しくは60代からの骨粗鬆症予防・骨粗鬆症外来をご覧ください。

痛みがあっても「動ける」方法を一緒に探します

「膝や腰が痛いから、運動なんてとても無理」と感じている方も、あきらめる必要はありません。痛みの原因を診察・画像評価で確認したうえで、お薬や注射で痛みをやわらげながら、痛みの出にくい動き方・運動の仕方をリハビリテーションでご提案できます。

杖や手すりなどの補助具も、前向きに活用していただきたい道具です。杖は「歩けなくなった人が使うもの」ではなく、バランスを補って行動範囲を守り、転倒を防ぐための道具です。適切に使うことで、むしろ安心して外出や運動を続けられるようになります。使い方は、リハビリテーションの歩行指導の中でご案内します。

膝の痛み(変形性膝関節症など)が続いている方は、膝でお悩みの方・変形性膝関節症もあわせてご覧ください。

骨を守る治療は、何歳からでも始められます

「この年になってから治療しても意味がないのでは」と思われる方がいらっしゃいますが、そんなことはありません。骨粗鬆症の治療は、骨折のリスクを下げることが目的であり、何歳からでも始める意味があります。すでに骨折を経験した方こそ、次の骨折(骨折の連鎖)を防ぐために治療を始める価値があります。骨粗鬆症の検査・治療は保険診療で行えるものがあります。

→ 検査・治療の体制は骨粗鬆症外来、病気の解説は骨粗鬆症(疾患の解説)へ。

今さら運動を始めても、遅くありませんか?

遅くありません。筋肉は、何歳になっても、適切な運動によって強くなる性質があることがわかっています。もちろん若い頃と同じようにはいきませんが、70代・80代から運動を始めた方でも、筋力やバランス能力の改善は期待できます。

大切なのは、いきなり頑張りすぎないことです。長く続けられる、無理のない運動から始めることが、結果的に一番の近道になります。持病や関節の痛みがある方は、自己流で始める前に一度ご相談ください。体の状態に合わせた安全な運動を、理学療法士と一緒に組み立てていくことができます。

転ばないように、動かないほうが安全ではありませんか?

お気持ちはよくわかりますが、実は逆です。転倒を恐れて活動を減らすと、脚の筋力とバランス能力が低下し、かえって転びやすい体になってしまいます。「動かない」ことは、転倒予防にはならず、フレイルを進める方向に働きます。

安全のために必要なのは、「動かないこと」ではなく「安全に動ける体と環境を整えること」です。手すりや杖を活用しながら、できる活動を減らさずに続けることが、長い目で見て転倒と骨折を防ぐことにつながります。

受診の目安(こんなときはご相談ください)

  • 最近つまずきやすくなった、ふらつくことが増えた
  • 歩くのが遅くなった、横断歩道を渡りきるのが不安になった
  • 階段の上り下りや立ち上がりがつらくなってきた
  • この1年以内に転んだことがある
  • 身長が以前より縮んできた、背中が丸くなってきた
  • 膝や腰の痛みで、外出や運動を控えるようになった
  • 骨密度を測ったことがない

ひとつでも当てはまる方は、一度ご相談ください。「病気というほどではないから」とためらう必要はありません。体の状態を確認し、いまから始められる対策を一緒に考えることが、整形外科の大切な役割だと考えています。

ご家族の方へ

ご本人は「年のせいだから」と受診をためらっていても、そばで見ているご家族が変化に気づいていることはよくあります。「最近つまずくことが増えた」「歩き方が変わった」「外出したがらなくなった」――そんな変化に気づいたら、受診のきっかけをつくっていただけると幸いです。

「骨密度を一度測ってみない?」「膝の痛み、診てもらおうよ」といった具体的なお誘いが、ご本人の背中を押すことがあります。診察へのご家族の付き添いも歓迎しており、ご本人と一緒に、生活の様子や気になる変化をお聞かせいただけると、より適切なご提案につながります。ご家族からのご相談だけでも構いませんので、お気軽にお声かけください。

よくあるご質問

Q. 転んだのですが、痛みが軽ければ受診しなくてもよいですか?
A. 痛みが軽くても、一度受診されることをおすすめします。背骨の圧迫骨折のように、はっきりした強い痛みがないまま起きている骨折もあります。また、転倒したという事実そのものが、筋力・バランス・骨の状態を見直すよい機会になります。

Q. 転倒予防のリハビリは、保険でできますか?
A. 医師の診察のうえ、症状や疾患に応じて保険診療でリハビリテーションを行えるものがあります。まずは診察で体の状態を確認し、適した内容をご提案します。詳しくはリハビリテーション科をご覧ください。

Q. 何も病気がなくても、相談してよいのでしょうか?
A. はい。「つまずきやすくなった」「歩くのが不安」といった変化の段階でのご相談を歓迎しています。はっきりした病気になる前の段階で体の状態を確認し、対策を始めることが、健康寿命を守るうえでむしろ効果的です。

Q. 家族が受診を嫌がります。どうすればよいですか?
A. 「治療を受けに行く」よりも「検査で状態を確認しに行く」というお誘いのほうが、受け入れていただきやすいことがあります。骨密度検査のように体への負担が少ない検査から始めるのもひとつの方法です。ご家族からのご相談も承っていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

Q. 運動はどのくらいの頻度でやればよいですか?
A. 体の状態によって適した内容・頻度が異なるため、一概には言えませんが、大切なのは「無理なく続けられること」です。診察とリハビリテーションで、一人ひとりの体に合った運動の種類と量をご提案します。

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