親指の付け根が痛い
「ペットボトルのふたが開けられない」「鍵を回すと痛い」「スマートフォンを片手で操作していると親指の付け根がジンジンする」——親指は日常のほとんどの動作に関わるため、ここが痛むと不便さが際立ちます。
そして「親指の付け根」と一口に言っても、実際には3つの異なる場所があり、原因も対応も変わります。このページでは、ご自身で確かめられる見分け方をご説明します。
まず、痛む場所を確かめてください
反対の手の指で、次の3か所を順番に押してみてください。いちばん痛いのがどこかが手がかりになります。
① 手首に近い、親指の付け根の膨らみ(CM関節)
手首から親指に向かって進んだところにある、少し盛り上がった部分です。ここを押して痛む場合、母指CM関節症が考えられます。
親指の根元の関節の軟骨がすり減って起こるもので、次のような特徴があります。
- つまむ・ひねる動作で痛む(ふたを開ける、鍵を回す、洗濯ばさみを使う)
- 進行すると、この部分が出っぱって見えるようになる
- 親指を大きく開きにくくなる
- 中年以降の女性に多い
詳しくは母指CM関節症のページをご覧ください。
② 手首の親指側(出っぱった骨のあたり)
親指を上に立てたとき、手首の親指側にできるくぼみのあたりです。ここが痛む場合、ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)が考えられます。
親指を動かす腱が、手首のトンネルを通るところで炎症を起こすものです。
- 親指を広げる・反らす動作で痛む
- 手首を小指側に傾けると強く痛む
- 産後の方・更年期の女性に多い(赤ちゃんを抱く動作が引き金になることがあります)
- スマートフォンの片手操作でも起こります
ご自身で確かめる方法:親指を内側に握り込んでこぶしを作り、手首を小指側にゆっくり傾けてみてください。手首の親指側に強い痛みが走る場合、ドケルバン病の可能性があります(無理に強く行わないでください)。
詳しくはドケルバン病のページをご覧ください。
③ 親指の指寄りの関節(MP関節)
親指の指の側、手のひらとの境目あたりの関節です。ここが痛む場合は、関節の炎症や、ばね指(親指は最も起こりやすい指のひとつです)、靭帯の損傷などが考えられます。
親指を曲げたときに引っかかる、カクンと跳ねる場合は、指が引っかかる・曲げ伸ばしで痛いのページもご覧ください。
こんなときは早めに受診してください
- 痛みが2週間以上続いている
- つまむ力が落ちた、物を落とすようになった
- 親指の付け根が出っぱってきた、変形が見える
- 腫れて熱をもっている
- 親指が動かせない、大きく開けない
- 転倒や突き指のあとから痛みが続いている(靭帯損傷や骨折の可能性があります)
- 産後で、赤ちゃんを抱くのがつらい
産後のドケルバン病は「一時的なものだから」と我慢される方が多いのですが、授乳期は抱っこの負担が続くため、自然には落ち着きにくい傾向があります。育児のしやすさにも関わりますので、無理をせずご相談ください。
ご自宅でできること
- 痛む動作を別のやり方に置き換える:ふたは滑り止めシートやオープナーを使う、鍵は指全体で回す、荷物は手のひら全体で持つ。
- 親指だけで支えない:スマートフォンは両手で持つ、赤ちゃんは前腕全体で支えるなど、力を分散させてください。
- サポーター・テーピング:親指と手首を軽く固定すると、負担が減って楽になることがあります。使う場面を絞って用いるのが基本です。
- 温める:慢性的な痛みには、入浴時などに温めると楽になることがあります。
- 無理なストレッチをしない:痛む方向に強く伸ばす動作は、炎症を強めることがあります。
親指はなぜ痛めやすいのですか
手の中で、親指だけが特別な構造をしています。
他の4本の指が同じ平面上に並んでいるのに対し、親指は手のひらに対して直角に近い向きについていて、他の指と向かい合わせることができます。この「対立」という動きがあるおかげで、私たちは物をつまみ、握り、道具を使うことができます。
そのぶん、親指の付け根の関節(CM関節)は、あらゆる方向に動ける自由度の高い関節になっています。自由に動くということは、裏を返せば構造として不安定だということです。関節を安定させているのは主に周囲の靭帯で、骨のかたち自体は深くはまり込む形にはなっていません。
さらに、つまむ動作をするとき、親指の先にかけた力の何倍もの力がCM関節にかかるとされています。ペットボトルのふたを開けるとき、指先の力はそれほど大きくなくても、付け根の関節には大きな負担が集中しているわけです。
つまり、親指の付け根は「よく使われる」「構造的に不安定」「力が集中する」という3つの条件が重なった場所です。中年以降に痛みが出やすいのには、こうした背景があります。
このことを知っておいていただくと、「つまむ・ひねる動作を減らす」「道具を使って力を分散させる」という工夫が、なぜ効くのかが納得しやすくなるかと思います。
当院での診察の流れ
どのあたりが・いつから・どんな動作で痛むかをうかがい、痛む場所を実際に押して確かめます。親指を動かせる範囲、つまむ力、変形の有無を確認し、ドケルバン病を確かめるための徒手検査も行います。
レントゲンでは、CM関節の隙間の状態、軟骨のすり減り、亜脱臼(関節のずれ)の有無を確認します。当院では超音波(エコー)検査を院内で行えますので、腱と腱鞘の炎症の程度をその場で観察することができます。
対応としては、まず親指の使い方の見直しと、装具による安静、炎症を抑える外用・内服から始めます。症状が強い場合には、注射という選択肢についてご説明することがあります。あわせて、親指を支える筋肉を保つための運動や、日常動作の工夫をリハビリテーションでご案内します。当院には理学療法士が常勤しており、保険診療の範囲で受けていただけます。
保存的な対応で改善が乏しい場合や、変形が進んで日常生活に支障が大きい場合には、手術という選択肢についてご説明し、専門的な治療を行う医療機関へご紹介します。なお、母指CM関節症については、状態によって他の選択肢をご案内できることもありますので、診察の際にご相談ください。
よくあるご質問
Q. スマートフォンの使いすぎが原因ですか?
片手での長時間操作は、親指の腱や関節に負担をかけます。原因のひとつになることは十分に考えられます。両手で持つ、操作時間を区切るといった工夫で負担を減らせます。
Q. 産後の手首の痛みは、いずれ治りますか?
授乳期を過ぎて抱っこの負担が減ると、落ち着いていく方もいらっしゃいます。ただし、その間ずっと痛みを我慢することになりますし、悪化することもあります。装具や使い方の工夫で楽になることが多いので、ご相談ください。
Q. 親指の付け根が出っぱってきました。元に戻りますか?
関節の変形そのものは元には戻りませんが、痛みを抑えることや、これ以上進みにくくすることは可能です。早い段階での対応ほど、選べる方法が増えます。
Q. サポーターはずっとつけていたほうがよいですか?
常時つけると筋力が落ちることがあります。負担のかかる作業をするときや、痛みが強い時期に絞って使うのが基本です。
Q. 何科を受診すればよいですか?
親指の付け根の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、CM関節・腱鞘・指の関節のどこが原因かを確かめたうえで対応をご提案します。