足底腱膜炎
足底腱膜炎は、足の裏に張っている腱膜のかかと側の付着部に、細かい傷や炎症が生じて痛みが出る病気です。かかとの痛みの原因として最も多く、ランナーだけでなく、立ち仕事の方、歩く機会が増えた方、体重が増えた方にも起こります。
この病気には、はっきりした特徴があります。治療の中心が、お薬や注射ではなく「ストレッチと負担の見直し」だという点です。そして、それをどれだけ続けられるかで経過が変わります。
このページでは、何をどのくらい続けるのかを、具体的にご説明します。
足底腱膜とは
足の裏には、かかとの骨から足指の付け根まで、扇形に広がる丈夫な膜が張っています。これが足底腱膜です。
この膜には2つの役割があります。
① 土踏まずのアーチを支える
弓の弦のように張ることで、アーチが潰れないよう保っています。
② 歩くときのバネになる
体重がかかるとアーチがわずかに沈んで衝撃を吸収し、蹴り出すときに元に戻ることで推進力を生みます。
歩くたびにこの伸び縮みが繰り返されるため、かかと側の付着部には、日々かなりの負担が集中します。この負担の積み重ねで、付着部に細かい傷や変性が生じるのが足底腱膜炎です。
なお、「炎」という字がつきますが、慢性化した状態では炎症よりも組織の変性が主体になることが分かっており、そのため単に炎症を抑えるだけでは改善しにくいという事情があります。
症状
- 朝、起きて最初の一歩がいちばん痛い
- 歩いているうちにだんだん楽になる
- 長く立っていたり歩いたりすると、再び痛くなる
- 座っていて立ち上がるときにも痛む
- かかとの骨の前寄り、少し内側を押すと痛む
- 土踏まずに沿って痛みが広がることもある
この「朝いちばん痛い・動くと楽・使うとまた痛い」という三拍子が、足底腱膜炎の典型的な経過です。
朝の一歩目が痛む理由:休んでいる間に修復が進んだ組織が、朝いきなり体重をかけられて引き伸ばされるためと考えられています。
起こりやすい方・きっかけ
- 急に運動量が増えた(ランニングを始めた、距離を増やした)
- 立ち仕事・歩く時間が長い
- 体重が増えた
- ふくらはぎが硬い:アキレス腱を通じて、かかとから足底腱膜が引っ張られます
- 足のアーチが高い、または低い(扁平足)
- 靴が合っていない:クッション性の乏しい靴、すり減った靴、裸足での硬い床の生活
- 40〜60代:この年代に多くみられます
診断
問診で、朝の一歩目の症状、痛む場所、経過、運動や仕事の状況、履いている靴をうかがいます。
診察では、押して痛む場所を確かめます。かかとの骨の前寄り・内側に限局した圧痛があれば、この病気の可能性が高くなります。あわせて、足のアーチのかたち、足首を上に曲げられる範囲(ふくらはぎの硬さ)、歩き方を確認します。
レントゲンでは、かかとの骨の状態と、疲労骨折が疑われる場合はその所見を確認します。骨のとげ(骨棘)が見つかることがありますが、骨棘は痛みのない方にもみられるため、これが原因とは限りません。
超音波(エコー)検査では、足底腱膜が厚くなっている様子や、付着部の状態を直接観察できます。当院では院内で行えますので、その場で状態を確認できます。
治療の中心はストレッチです
足底腱膜炎の治療で、最も重要かつ効果が期待できるのがストレッチです。次の2つを行います。
① ふくらはぎのストレッチ
なぜ必要か:ふくらはぎが硬いと、アキレス腱を介してかかとが引っ張られ、その力が足底腱膜にも伝わります。ふくらはぎの柔軟性を改善することが、足底腱膜への負担軽減に直結します。
やり方
壁に両手をつき、片脚を大きく後ろへ引きます。後ろの脚の膝を伸ばしたまま、かかとを床につけて、体重を前へ移します。ふくらはぎが伸びる感覚があるところで止め、20〜30秒保ちます。
次に、後ろの脚の膝を軽く曲げて同じ姿勢をとります。これでアキレス腱の深い部分が伸びます。同じく20〜30秒。
左右それぞれ、2〜3セット、1日2〜3回が目安です。
② 足底腱膜のストレッチ
やり方
椅子に座り、痛む側の足を反対の膝の上に載せます。手で足の指(とくに親指)を、足の甲側へゆっくり反らします。 土踏まずが張る感覚があるところで、20〜30秒保ちます。
もう一方の手で土踏まずを軽く押すと、腱膜が張っているのが分かります。
1日2〜3回、とくに朝、起き上がって床に足をつける前に行うと、一歩目の痛みが軽くなることがあります。
続ける期間の目安
数日では変わりません。 一般に、変化を感じるまでに数週間、しっかりした改善までに数か月かかることが多いとされています。
「やってみたけれど効かなかった」という方の多くは、期間が足りていないことが原因です。歯磨きのように生活に組み込んでいただくのが、結局いちばんの近道になります。
そのほかの治療
- 靴・インソールの見直し:かかとにクッション性があり、土踏まずを支える構造のもの。裸足での硬い床の生活を避けることも大切です。
- お薬:痛みが強い時期に、炎症や痛みを抑える外用・内服を用いることがあります。ただし、これは症状を和らげるもので、原因への対応ではありません。
- リハビリテーション:足首・ふくらはぎの柔軟性、足指の筋力、歩き方や姿勢の評価と指導を行います。当院には理学療法士が常勤しており、保険診療の範囲で受けていただけます。
- 体重の管理:足裏には体重がそのままかかります。
- 活動量の調整:完全に休む必要はありませんが、急な増加は避けます。
これらを続けても改善が乏しい場合には、他の選択肢についてもご説明します。詳しくは診察の際にご相談ください。
靴とインソールの選び方
ストレッチと並んで大切なのが、日々履くものの見直しです。足底腱膜への負担は、靴で大きく変わります。
確認したい5つのポイント
- かかとのクッション性:手で押して、ある程度沈むもの。着地の衝撃を受け止める部分です。
- 土踏まずのサポート:中敷きを取り出し、土踏まず部分が盛り上がっているか確かめてください。アーチを下から支えることで、腱膜が引き伸ばされるのを抑えられます。
- かかとのホールド:かかとを包む部分を指でつまみ、簡単につぶれないもの。ぐらつくと余分な負担がかかります。
- 靴底の硬さ:足指の付け根で自然に曲がり、それ以外は簡単にねじれないもの。全体が柔らかすぎる靴は、かえって負担を増やします。
- サイズ:大きすぎると中で足が動き、余分な力がかかります。
避けたいもの
- 裸足・スリッパでの硬い床の生活:症状のある時期は、室内でもクッション性のある履物をおすすめします。フローリングを裸足で歩くのは、足裏にとってかなりの負担です。
- かかとが薄くぺたんこの靴:バレエシューズ型、薄いサンダル、ビーチサンダル。
- すり減った靴:かかとの外側が大きく削れていると、足の傾きを助長します。
インソールについて
土踏まずを支えるインソールは、腱膜にかかる引っ張りを減らす助けになります。市販品でも、アーチを支える構造がしっかりしたものであれば十分に役立ちます。効果が乏しい場合や、足のかたちに合わないと感じる場合は、診察の際にご相談ください。
なぜ長引きやすいのですか
足底腱膜炎が数か月にわたることがあるのには、はっきりした理由があります。
歩かない生活ができないためです。 腱や靭帯の傷みは、その部分を休めることで落ち着いていきますが、足の裏は立つ・歩くたびに必ず体重がかかります。完全に休ませることが難しいため、治りかけては負担がかかる、を繰り返しやすいのです。
加えて、慢性化した状態では炎症より組織の変性が主体になるため、痛み止めや湿布だけでは根本的な改善につながりません。
だからこそ、負担を減らす工夫(靴・インソール・活動量・体重)と、柔軟性を保つストレッチという、地道な2本立てが治療の柱になります。逆にいえば、続けるかどうかで経過が変わりやすい病気ともいえます。
思うように改善しないときは、やり方が合っていない、期間が足りていない、あるいは別の原因が隠れていることもあります。一人で抱え込まず、経過をご相談ください。
よくあるご質問
Q. かかとの骨のとげ(骨棘)が原因ですか?
骨棘は、痛みのない方にも見つかることがあります。骨棘そのものが痛みの直接の原因とは限らないため、症状と診察所見をあわせて判断します。
Q. 歩かないほうがよいですか?
まったく歩かないと、足首やふくらはぎが硬くなってかえって長引くことがあります。長時間の立ち仕事や急な運動量の増加を避けながら、日常の歩行は続けていただいて構いません。
Q. どのくらいで治りますか?
数週間で落ち着く方もいれば、数か月かかる方もいます。ストレッチと負担の見直しを続けられるかどうかで、経過が大きく変わります。
Q. ゴルフボールで足裏を転がすのは効きますか?
腱膜をほぐす目的で行われる方法で、取り入れていただいて構いません。ただし、痛みを我慢して強く押しつけると、かえって炎症が強まることがあります。痛気持ちいい程度にとどめてください。
Q. 手術が必要になることはありますか?
ほとんどの方は、保存的な対応で改善していきます。手術が検討されるのは、長期間の保存的治療でも改善しない一部の場合に限られます。
Q. 何科を受診すればよいですか?
かかと・足裏の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、原因を確かめたうえで対応をご提案します。