母指CM関節症

母指CM関節症は、親指の付け根にある関節(CM関節)の軟骨がすり減り、痛みと変形が生じる病気です。中年以降の女性に多くみられます。

親指は、物をつまむ・握る・ひねるという、日常のほとんどの手作業に関わっています。そのため、この関節が痛むと、「たかが親指」では済まない不便さが生じます。ペットボトルが開けられない、鍵が回せない、洗濯ばさみが使えない——受診される方の多くが、こうした具体的な困りごとを挙げられます。

なぜ親指の付け根なのか

手の中で、親指だけが特別な構造をしています。

他の4本の指が同じ平面上に並んでいるのに対し、親指は手のひらに対して直角に近い向きについていて、他の指と向かい合わせることができます。この「対立」という動きのおかげで、私たちは物をつまみ、道具を扱うことができます。

この動きを可能にしているのが、手首に近い付け根にあるCM関節(第一手根中手関節)です。この関節は鞍(くら)のような形をしていて、あらゆる方向に動かせる高い自由度を持っています。

ただし、自由に動くということは、構造として不安定だということでもあります。関節を安定させているのは主に周囲の靭帯で、骨のかたち自体は深くはまり込む形にはなっていません。

さらに、つまむ動作をするとき、指先にかけた力の何倍もの力がCM関節に集中するとされています。ペットボトルのふたを開けるとき、指先の力はそれほど大きくなくても、付け根の関節には大きな負担がかかっているわけです。

「よく使われる」「構造的に不安定」「力が集中する」——この3つが重なるため、加齢とともに軟骨がすり減りやすくなります。

症状

痛み

親指の付け根、手首に近い膨らみの部分が痛みます。次のような動作で強く出ます。

  • ペットボトル・ビンのふたを開ける
  • 鍵を回す
  • 洗濯ばさみ、ホチキス、栓抜きを使う
  • 布巾を絞る
  • 包丁を使う、フライパンを持つ
  • スマートフォンの片手操作

変形

進行すると、付け根の部分が外側に出っぱって見えるようになります。関節がずれる(亜脱臼)ためです。

さらに進むと、親指全体がZ字型に曲がることがあります。付け根が出っぱり、その先の関節が反り返る形です。

動きの制限

親指を大きく開きにくくなるため、大きな物をつかむのが難しくなります。

起こりやすい方

  • 中年以降の女性:最も多く、ホルモンバランスの変化が関わるといわれています。
  • 手をよく使うお仕事・趣味の方
  • もともと関節がやわらかい方
  • ヘバーデン結節がある方:同じ指の変形性関節症として併存することがあります。

診断

問診では、いつから、どの動作で痛むか、日常で困っている動作をうかがいます。

診察では、CM関節の部分を押して痛むかを確認し、関節を軽く押しながら回すことで痛みや軋みが誘発されるかを調べます(グラインドテスト)。あわせて、変形の程度、親指を開ける範囲、つまむ力を確認します。

親指側の手首が痛むドケルバン病と混同されやすいため、痛む場所を丁寧に分けて確かめます。

レントゲンが診断の中心です。CM関節の隙間の狭さ、骨のとげ、関節のずれ(亜脱臼)の程度を確認します。画像の進行度と痛みの強さは必ずしも一致しないため、治療方針は症状と日常生活への支障をあわせて決めていきます。

超音波(エコー)検査では、関節周囲の炎症の程度を観察できます。当院では院内で行えます。

治療

① 使い方の見直し

まず基本になるのがここです。 つまむ・ひねる動作を減らし、道具に力を肩代わりさせます。

  • ふたはオープナーや滑り止めシートを使う
  • 鍵は指全体で回す、大きめのキーカバーをつける
  • 荷物は手のひら全体・前腕で持つ
  • スマートフォンは両手で持つ

「道具に頼るのは大げさ」と感じられる方もいらっしゃいますが、関節を守るための合理的な選択です。

② 装具

親指と手首を軽く固定する装具を使うと、負担が減って痛みが軽くなることがあります。常時つけると筋力が落ちることがあるため、負担のかかる作業のときや、痛みが強い時期に絞って用いるのが基本です。

③ お薬

痛みや炎症を抑える外用・内服を用います。

④ 注射

症状が強い場合、関節内への注射という選択肢について、ご説明することがあります。

⑤ 再生医療(PRP療法)という選択肢

保存的な対応で改善が十分でない場合、PRP療法が選択肢となることがあります。ご自身の血液から取り出した成分を関節内に投与する方法です。

近年、手の小さな関節に対するPRP療法についての報告が増えてきており、当院でも母指CM関節症に対して対応しています。適応となるかどうかは、進行の段階、痛みの程度、これまでの治療経過をふまえて判断します。

詳しくはPRP療法のページをご覧ください。

※ PRP療法は自由診療(保険適用外)です。効果には個人差があります。なお、保険診療と自由診療の再生医療を同じ日に行うことはできません。

⑥ 手術

変形が進み、日常生活への支障が大きい場合には、手術が検討されます。当院では手術は行っておりません。 必要と判断した場合には、専門的な治療を行う医療機関へご紹介します。手術後のリハビリテーションについては、当院で継続して受けていただくことができます。

ご自宅でできること

日常の中で、親指にかかる力をどう逃がすかが鍵になります。すべてを実行する必要はありません。取り入れやすいものを1つか2つ選んでいただくだけでも、負担は変わります。

つまむ・ひねる動作を置き換える

  • ふた類:オープナー、滑り止めシート、電動オープナー。輪ゴムを巻くだけでも滑りにくくなります。
  • 鍵:大きめのキーカバーをつけると、指全体で回せます。
  • 洗濯ばさみ:軽い力で開くタイプに替える、ピンチハンガーを見直す。
  • 包丁・調理:軽い調理器具に替える、フードプロセッサーを使う。
  • 買い物袋:指の付け根に食い込ませず、前腕にかける。エコバッグは肩掛けタイプに。

持ち方を変える

  • スマートフォンは両手で持つ、長時間の片手操作を避ける
  • 荷物は手のひら全体・前腕で支える
  • コップやマグは両手で持つ、取っ手を親指だけで支えない

手を休める

  • 連続した手作業の合間に、手を開いて数十秒休ませる
  • 痛みが強い日は、装具を使う時間を増やす

温める

入浴時などに温めると、こわばりや痛みが和らぐことがあります。ただし、腫れて熱っぽいときは温めず、冷やしてください。

避けたいこと

  • 出っぱった部分を強く揉む:小さくなることはなく、炎症が強まることがあります
  • 痛みを我慢して強くつまむ動作を繰り返す
  • 自己流の強いストレッチ:関節が不安定なため、かえって負担になることがあります

進行の目安と、治療の選び方

母指CM関節症は、レントゲン所見をもとに段階的に評価されます。ただし冒頭で述べたとおり、画像の段階と痛みの強さは必ずしも一致しません。

そのため、当院では次の順序で考えていきます。

① 日常生活でどれだけ困っているか
「ペットボトルが開けられない」「仕事に支障が出ている」といった具体的な困りごとが、治療を選ぶうえで最も重要な情報になります。

② これまでどの対応を試したか
使い方の見直しや装具をまだ試していない段階であれば、まずそこから始めます。すでに続けているのに改善しない場合は、次の選択肢を検討します。

③ 変形と不安定さの程度
関節のずれが進んでいる場合、装具や注射での対応には限界があります。

④ 年齢と手の使い方
お仕事や趣味で手を使う頻度、今後どのように使っていきたいかも、選択に関わります。

「画像がこの段階だから、この治療」という決め方はしません。 ご本人が何に困っていて、どうなりたいかをうかがったうえで、選択肢をご提案します。

よくあるご質問

Q. 出っぱってきた関節は元に戻りますか?
関節の変形そのものが元に戻ることはありません。ただし、痛みを抑えることや、これ以上進みにくくすることは可能です。早い段階ほど、選べる方法が増えます。

Q. スマートフォンの使いすぎが原因ですか?
片手での長時間操作は、親指の関節に負担をかけます。原因のひとつになることは十分に考えられます。両手で持つ、操作時間を区切るといった工夫で負担を減らせます。

Q. 手を使わないほうがよいですか?
まったく使わないことは現実的ではありませんし、動かさないと硬くなります。「痛みが強く出る動作を減らす」「道具で力を肩代わりさせる」という考え方で進めましょう。

Q. ドケルバン病とどう違うのですか?
痛む場所が違います。CM関節症は親指の付け根の膨らみ、ドケルバン病は手首の親指側です。診察で区別できますので、ご相談ください。

Q. 何科を受診すればよいですか?
親指の付け根の痛みは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、状態に応じた選択肢をご提案します。

この治療を受けられる前に(費用・リスク・自由診療について)

このページでご案内している治療のうち、次のものは自由診療(保険適用外)です。ご検討の前にご確認ください。

  • PRP療法:自由診療(保険適用外)です。標準的な費用は、白血球除去型PRP(PRGF-Endoret®)110,000円/回(計3回が標準)、高用量PRP(Angel™ HD-PRP)330,000円/回(いずれも税込)。料金は1部位ごとに発生します(例:両膝にPRGFを3回で660,000円)。別途、MRI評価・血液検査の費用がかかります。主なリスクは注射部位の一時的な痛み・腫れ・熱感・内出血で、感染等のリスクは低いとされますがゼロではありません。治療効果には個人差があります。用いるPRP調製システムはいずれも国内で承認・認証を受けた医療機器です(Angel™ cPRP System 承認番号 30500BZX00054000/PRGF-Endoret® 認証番号 30500BZI00007000)。
  • 入手経路・国内の承認状況:いずれも国内の正規流通経路で導入しています。医師の個人輸入は行っておりません。くわしくは当院の自由診療についてをご覧ください。

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