頚椎症性脊髄症

頚椎症性脊髄症は、首の中を通る脊髄そのものが圧迫されて、手の細かい動作や歩行に支障が出る病気です。

同じ「頚椎症」でも、神経の根もとが圧迫される頚椎症性神経根症とは、症状も、対応の急ぎ方も異なります。

そして、この病気には知っておいていただきたい特徴があります。首の痛みが、あまり目立たないことがあるという点です。「首は痛くないから首の病気ではないだろう」と考えて、受診が遅れることがあります。

脊髄が圧迫されるとはどういうことか

首の骨(頚椎)の中には、脊柱管というトンネルがあり、その中を脊髄が通っています。脊髄は脳から続く神経の本幹で、手足を動かす指令と、感覚の情報が、すべてここを通ります。

加齢に伴い、椎間板が薄くなる、骨のとげ(骨棘)ができる、靭帯が厚くなるといった変化が起こると、このトンネルが狭くなります。もともと脊柱管が狭い方(先天性狭窄)では、より起こりやすくなります。

神経の根もとの圧迫(神経根症)が片側の腕の症状で済むのに対し、脊髄そのものが圧迫されると、そこから下のすべて——両手、体幹、両足——に影響が及びます。これが症状の違いを生みます。

症状

① 手の細かい動作がしにくくなる(巧緻運動障害)

この病気の最も特徴的な症状です。

  • ボタンがかけにくい
  • 箸が使いにくい、食べ物をこぼす
  • 字が書きにくい、文字が乱れる
  • 小銭がつまみにくい
  • 爪が切りにくい

「手が不器用になった」「歳のせいで動きが鈍くなった」と感じられることが多く、病気の症状だと気づかれにくいのが特徴です。

② 両手のしびれ

左右どちらか片側ではなく、両手にしびれが出るのが典型的です。手袋をはめたような、感覚が鈍い感じを伴うこともあります。

③ 歩きにくさ

  • 足がもつれる、つまずきやすい
  • 階段を下りるのが怖い、手すりが必要になった
  • 足の裏に何か貼りついているような感じがする
  • 歩幅が狭くなった、ふらつく

手の症状と歩行の症状が両方ある場合は、脊髄症の可能性が高くなります。

④ 排尿の変化

進行すると、尿が出にくい、回数が増える、間に合わないといった変化が現れることがあります。この症状が出ている場合は、早めの確認が必要です。

ご自身で確かめる方法

次の2つは、ご自宅で試していただけます。

10秒テスト(グーパーテスト)

両手を前に出し、10秒間でグーとパーを何回繰り返せるかを数えてください。

一般に、10秒間に20回以上できれば問題ないとされています。これが明らかに少ない場合や、途中で動きがぎこちなくなる場合は、確かめておく価値があります。左右差があるかどうかも見てみてください。

書字テスト

以前と比べて字が書きにくくなっていないか、実際に何か書いて確かめてみてください。文字の大きさが揃わない、線が震える、といった変化があれば、診察の際にお伝えください。

いずれも目安であって診断ではありませんが、受診を判断する材料になります。

「様子を見る」が選びにくい病気です

多くの整形外科の病気は、まず保存的な対応から始めて、経過をみながら次を考えます。ところが、この病気はその考え方が当てはまりにくいという特徴があります。

理由は2つです。

① 圧迫された脊髄は、時間とともに回復しにくくなる
神経の根もとの圧迫(神経根症)は、多くが保存的な治療で軽快していきます。しかし脊髄は、圧迫が長く続くと組織そのものが変化してしまい、圧迫を取り除いても機能が戻りにくくなることがあります。

② 転倒などの軽い外力で、急に悪化することがある
脊柱管が狭くなっている状態で首に衝撃が加わると、それまで保たれていた機能が急に失われることがあります。転倒や事故には、より注意が必要な状態といえます。

このため、脊髄症と診断された場合、症状の程度によっては、早い段階で手術を検討することがあります。 これは「重い病気だから」ではなく、手術のタイミングが結果に影響しやすいという性質によるものです。

もちろん、症状が軽く進行が緩やかな場合には、経過をみながら判断することもあります。どうするかは、症状の程度、画像所見、生活の状況をあわせて決めていきます。

診断

問診では、いつから、どんな動作がしにくくなったか、しびれの範囲、歩き方の変化、排尿の変化をうかがいます。

診察では、手の細かい動作、筋力、感覚を確認し、反射の異常(腱反射が強くなる、通常は出ない反射が現れる)を調べます。これらは脊髄が圧迫されているときに現れる所見です。歩き方も確認します。

レントゲンでは、頚椎の並び、椎間板の狭さ、骨棘を確認します。

MRIが最も重要な検査です。脊髄がどの高さで、どの程度圧迫されているか、脊髄そのものに変化が生じていないかを直接確認できます。当院にMRIはありませんので、連携医療機関での撮影となります。 撮影後は、画像をもとに当院で結果をご説明します。

治療

保存的な治療

症状が軽い場合には、次のような対応で経過をみることがあります。

  • 首に負担のかかる姿勢・動作を避ける(首を大きく反らす、強くひねる)
  • 転倒を防ぐ:この病気では、転倒による急な悪化を避けることが特に重要です
  • お薬による症状への対応
  • 頚椎カラーによる安静(一時的に用いることがあります)

ただし、保存的な治療で脊髄の圧迫そのものが取り除かれるわけではありません。 症状の変化を注意深く追いながら進めます。

手術

次のような場合には、手術が検討されます。

  • 手の細かい動作の障害が進んでいる
  • 歩行に支障が出ている
  • 排尿の変化がある
  • 画像で脊髄の圧迫が強い

脊髄の圧迫を取り除く手術で、首の後ろから行う方法と前から行う方法があります。手術の目的は、多くの場合「今ある機能を守ること」です。すでに失われた機能をすべて取り戻すことが目的ではない点は、あらかじめ知っておいていただきたいところです。

当院では手術は行っておりません。 手術が望ましいと判断した場合には、専門的な治療を行う医療機関へ速やかにご紹介します。手術後のリハビリテーションについては、当院で継続して受けていただくことができます。

日常生活で気をつけたいこと

  • 転倒を防ぐ:段差、滑りやすい床、暗い廊下。手すりの活用も検討してください。
  • 首を強く反らさない・ひねらない:高い場所の作業、美容室での洗髪、首を鳴らす動作。
  • 首への衝撃を避ける:接触のあるスポーツ、遊園地の激しい乗り物など。
  • 整体・マッサージで首を勢いよく動かす施術は避ける:この病気では、首に急な力が加わることが望ましくありません。受ける前に、必ず医師にご相談ください。
  • 自転車・バイクの運転:ふらつきや手の力の入りにくさがある場合は、控えることをご検討ください。

よくあるご質問

Q. 首が痛くないのですが、首の病気なのでしょうか?
はい、あり得ます。脊髄症では、首の痛みが目立たないまま、手や足の症状が先に出ることがよくあります。「首が痛くない=首の病気ではない」とは限りません。

Q. 手が不器用になっただけで、年のせいではないですか?
加齢による変化のこともありますが、短期間で明らかに変わった、両手に同時に起きた、歩きにくさも伴うという場合は、確かめておく価値があります。

Q. 必ず手術になりますか?
いいえ。症状が軽く進行が緩やかな場合には、経過をみることもあります。ただし、この病気では手術のタイミングが結果に影響しやすいため、状態によっては早めの検討をおすすめすることがあります。

Q. 手術をすれば元どおりになりますか?
手術の主な目的は、進行を止め、今ある機能を守ることです。症状がどこまで改善するかは、圧迫の期間や程度によって異なります。この点は、早い段階で確かめておくことをおすすめする理由でもあります。

Q. 何科を受診すればよいですか?
手の使いにくさや歩きにくさは整形外科でご相談いただけます。当院では整形外科専門医が診察・検査を行い、脊髄症が疑われる場合には、専門的な治療を行う医療機関と速やかに連携します。

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