痒疹(ようしん)
痒疹は、強いかゆみを伴う、硬く盛り上がったブツブツが、体にできる状態です。結節性痒疹とも呼ばれます。
このページをご覧の方の多くは、おそらく次のような経過をたどっておられます。
虫に刺された、あるいは湿疹ができた。かゆくて掻いた。数か月経っても治らない。むしろ硬くなってきた。薬を塗っても変わらない。
そして、「もう治らないのだろう」と思い始めている。
まず、はっきりお伝えします。
痒疹は治りにくい病気です。それは事実です。
しかし、「治らない」わけではありません。 そして、治りにくい理由には、はっきりした構造があります。
なぜ、こんなに治りにくいのか
痒疹が他の湿疹と違うのは、皮膚と神経の両方が変化してしまっている点です。
起きていること
① 皮膚が厚く硬くなる
繰り返し掻くことで、皮膚が防御反応として厚くなります。厚くなった皮膚には、塗り薬が届きにくくなります。
② かゆみを伝える神経が増える
掻き続けた部分では、かゆみを感じる神経の枝が増え、皮膚の表面近くまで伸びてくることが知られています。
つまり、同じ刺激でも、より強くかゆみを感じるようになります。
③ 少しの刺激でかゆくなる
服がこすれる、汗をかく、温まる——それだけでかゆみが出ます。
④ 掻く。①に戻る。
この循環が、痒疹の本体です。
もともとのきっかけ(虫刺され、湿疹)は、とっくに治っています。今かゆいのは、掻いたことによってできあがった状態そのものです。
これは、意志の問題ではありません
診察で、多くの方がこうおっしゃいます。
「掻かなければいいのは分かっているんです。でも、どうしても掻いてしまって」
そして、ご自身を責めておられます。
責める必要はありません。
上に述べたとおり、痒疹の皮膚ではかゆみを伝える神経そのものが増えています。 我慢が足りないのではなく、かゆみの信号が実際に強く出ているのです。
さらに、眠っている間の掻破があります。無意識のうちに掻いてしまい、朝になって気づく。これを意志で止めることはできません。
ですから、治療の考え方はこうなります。
「掻かないよう努力する」のではなく、「掻かずにいられる状態をつくる」。
かゆみを薬で下げる。皮膚の炎症を抑える。夜間の掻破を減らす。そうして初めて、循環から抜けられます。
症状
- 硬く盛り上がった、丸いブツブツ(数ミリ〜2cm程度)
- 表面がざらつき、かさぶたや掻き傷を伴う
- 激しいかゆみ
- 左右対称に、多発することが多い
- 腕、脚(とくにすねと太もも)、背中、腰に多い
- 手が届かない背中の中央部分だけ、きれいに残ることがあります
- 治ったあとに、色素沈着(茶色い跡)が残ります
「背中の真ん中だけ何もない」というのは、痒疹に特徴的な所見です。手が届く範囲だけに病変があるということが、掻破の関与を示しています。
きっかけになるもの
- 虫刺され(最も多いきっかけのひとつ)
- 湿疹、あせも
- アトピー性皮膚炎
- 乾燥した皮膚
- ストレス、睡眠不足
- 明らかなきっかけがないこともあります
背景に、別の理由が隠れていることがあります
これが、本ページでお伝えしたいもうひとつの点です。
痒疹が広い範囲に出ている場合、長く続いている場合、皮膚以外に原因があることがあります。
- 腎臓の働きの低下(透析を受けている方を含む)
- 肝臓・胆道の病気
- 甲状腺の働きの異常
- 糖尿病
- 鉄が不足している状態
- 血液の病気
- 飲んでいるお薬
- アレルギー性の背景
これらが背景にある場合、皮膚の治療だけでは十分に良くなりません。 原因に対応することで、かゆみが軽くなることがあります。
「ずっと塗り薬を続けているけれど変わらない」という方は、一度、背景を調べる価値があります。 血液検査で確認できることも多くあります。
診断
問診では、いつから、どこに、どのように始まったか、きっかけ(虫刺され・湿疹など)、これまでの治療、持病とお薬、体重の変化、だるさ、生活の状況をうかがいます。
「どこから始まったか」「何がきっかけだったか」は、思い出せる範囲で構いません。
診察では、皮疹の形、硬さ、分布(左右対称か、手の届く範囲か)、掻き傷、色素沈着、乾燥の程度を確認します。
必要に応じて血液検査を行い、上に挙げた背景がないかを確認します。判断が難しい場合には、組織を採って調べる検査を行うことがあります。
治療
痒疹の治療は、複数の方法を組み合わせて、循環を断つことが基本になります。
① 炎症を抑える塗り薬
ステロイド外用薬を使います。厚くなった皮膚には届きにくいため、しっかりした強さが必要になることが多く、また密封する方法(薬を塗った上をラップやテープで覆う)をとることがあります。
② かゆみ止めの内服
とくに夜間の掻破を減らすために重要です。
③ 病変に直接行う処置
硬く盛り上がった部分に対して、直接行う処置があります。
④ 保湿
乾燥はかゆみを強めます。周囲の皮膚を整えることも治療の一部です。
⑤ 背景への対応
血液検査などで背景が見つかれば、そちらへの対応を行います。
⑥ そのほかの治療
上記で十分でない場合、状態に応じて他の治療を検討することがあります。
掻破を減らすための工夫
薬と並行して、掻く回数を物理的に減らすことが効きます。
- 爪を短く、なめらかに整える:これだけでもダメージが変わります
- 寝るときに手袋:無意識の掻破への対策
- 患部を覆う:包帯、ガーゼ、サポーター。物理的に届かなくする
- 冷やす:保冷剤をタオルで包んで軽く当てる
- 掻く代わりに、手のひらで押さえる
- 熱いお風呂、長湯を避ける:温まるとかゆみが強まります
- アルコールを控える:血管が広がり、かゆみが出やすくなります
- 綿の衣類:チクチクする素材を避ける
「掻いてしまった日」があっても構いません。 ゼロにする必要はなく、回数が減れば、皮膚は少しずつ回復に向かいます。
経過について
正直にお伝えします。
痒疹は、時間のかかる病気です。
数週間で劇的に良くなることは、あまりありません。数か月単位で、少しずつ変化していきます。
そして、良くなる順番があります。
① まず、かゆみが軽くなる
② 次に、新しい病変が出なくなる
③ 最後に、硬いしこりが平らになっていく
④ 色素沈着は、さらに時間をかけて薄れる
しこりが残っていても、かゆみが減っていれば、治療は進んでいます。
見た目だけで判断すると「変わっていない」と感じますが、かゆみの変化を目安にしてください。
よくあるご質問
Q. 何年も治りません。もう無理でしょうか。
あきらめる必要はありません。 長く続いている方ほど、背景に別の理由がないかを調べる価値があります。また、治療の組み合わせを見直すことで変わることもあります。
Q. ステロイドを長く使って大丈夫ですか?
痒疹の皮膚は厚くなっており、通常の湿疹より強い薬が必要になることが多い病気です。ただし、漫然と使うのではなく、経過をみて調整します。 定期的に診察を受けていただくのは、そのためです。
Q. 跡は消えますか?
色素沈着は、時間とともに薄れていきます。 ただし年単位かかることがあり、日焼けすると濃くなります。 紫外線対策が有効です。
Q. 人にうつりますか?
うつりません。
Q. 掻いてしまう自分が情けないです。
そう感じる必要はありません。 痒疹の皮膚では、かゆみを伝える神経が実際に増えています。我慢の問題ではありません。 掻かずにいられる状態をつくることが治療です。
Q. 何科を受診すればよいですか?
皮膚科でご相談ください。背景に別の病気がある場合は、内科的な確認や、必要に応じて他の医療機関へのご紹介を行います。